[フランクフルト 24日 ロイター] – ドイツの自動車メーカーは、米自動車大手フォード・モーター<F.N>と協力して電気自動車(EV)用の高出力充電網を展開することにより、電源プラグや充電規格を業界標準として確立し、ライバル社に対する優位性を得ようと試みている。
現時点では、米EV大手テスラ<TSLA.O>と日独の自動車メーカーでは、バッテリーと充電器を接続するプラグ形状や通信規格が異なっている。だが、EVを主流にするために不可欠な充電ステーション網の構築に携わる関係各社は、コスト抑制のためにはプラグ形式の種類を限定する必要があると指摘する。
「勝ち組」のプラグや通信規格を採用する自動車メーカーは、安定したサプライチェーンと充実したネットワークを追い風にできる、とアナリストは分析。長距離ドライブに不安を抱く顧客にとっても、彼らが手掛けるEVの潜在的な魅力を増すことになるからだ。
一方で、「負け組」規格を採用したメーカーは、自らの研究開発が徒労に終わる結果となり、顧客が最も普及した急速充電網を利用できるよう、組立ラインと車両設計の見直すための追加投資を強いられるリスクがある。
EV販売拡大に対応するグローバルな充電インフラ構築には、今後8年間で3600億ドルの投資が必要だとUBSは試算しており、現在使われている数多くのテクノロジーの絞り込みが鍵になると指摘している。
「急速充電ステーションは急成長するだろうが、接続や通信規格がそれぞれ違うという課題を今後解決していく必要があるだろう」と、UBSは今月発表した調査で述べている。
BMW<BMWG.DE>やダイムラー<DAIGn.DE>、フォード、そしてアウディやポルシェなどを含むフォルクスワーゲン<VOWG_p.DE>グループは昨年11月、欧州18カ国の幹線道路沿いに400カ所の高出力充電ステーションを2020年までに整備すると発表した。
これは「コンバインド・チャージング・システム(CCS)」と呼ばれる欧州で支持されている急速充電規格が、爆発的な普及のために必要な「クリティカルマス」を得るための布石だ。
「突き詰めれば、EVに投資している人々の資産をどう保護するかという話だ」。そう語るのは、BMWでEV部門を率いるクラ─ス・ブラックロ氏だ。同氏はCCSを支援しているチャージング・インターフェース・イニシアチブ(CharIN)の会長も務めている。「私たちがCharINを発足させたのは、強力な立場を構築するためだ」
1種類の万能ノズルでどの車にでも燃料補給できる従来のガソリン・ディーゼル車とは異なり、まだ初期段階にあるEV市場においては、どの充電規格が普及するかを予想するだけでなく、EV充電でのさまざまな方式がいつまでも並立するのかどうかを見極めることさえ難しい。
しかし、バッテリーとEVの開発に何十億ドルも注ぎ込んでいる自動車メーカーにとっては、これは非常に大きな賭けとなっている。
<規格競争>
EVバッテリーの急速充電に関しては、CCSの他に3つの規格が存在する。テスラの「スーパーチャージャー」、日産自動車<7201.T>や三菱自動車<8058.T>などを含む日本企業が開発した「チャデモ」、そして世界最大のEV市場である中国の「GB/T」だ。
「チャデモとCCSは、いずれは現行のCCSに合わせる形で融合していくと思う。テスラについてはどうなるか分からない」。米シリコンバレーを本拠として世界最大級の充電自動車網を手掛けるチャージポイントのパスカル・ロマノ最高経営責任者(CEO)はそう語る。
CCSの充電拠点は、これまでのところ全世界で約7000カ所存在し、その半分以上が欧州だとCharINは説明する。欧州連合(EU)は急速充電に関する規格としてCCSを支持しているが、他規格のプラグ導入を禁止しているわけではない。
一方、チャデモの充電ポイントは1万6639カ所(大半が日本と欧州)に及び、テスラのスーパーチャージャーは8496カ所(半数以上が米国)に上る。中国電気自動車充電インフラ促進同盟によれば、中国にはGB/T規格の充電ステーションが12万7434カ所あるという。
ビデオテープ市場において、かつてVHSとベータマックスが覇権を争ったような過去の規格競争と同様に、それぞれの充電規格には一長一短がある。
例えば、テスラのシステムはテスラ顧客専用だが、CCSは直流・交流双方で充電できるダブルプラグを採用しており、ドライバーが再充電できるスポット数が増大している。
一方、チャデモではEV電池から電力グリッドに対して電力を売ることが可能だ。この「双方向充電」と呼ばれるプロセスは、需要変動期にエネルギー網を安定化させる上で有効であり、EV所有者が多少の現金収入を稼げるようになっている。
「もし私が日産の立場なら、自身が採用した規格が支配的な存在になるよう望むだろう」と語るのは、エネルギーやテクノロジー、電力インフラといった企業部門に助言するアレクサ・キャピタルの創業者ジェラルド・ライド氏。「採用した規格が世界標準になれば、競争優位が得ることができる」
<鍵は充電スピード>
家庭でEV充電のために使われるプラグのほとんどは交流(AC)電流を利用しており、充電には時間がかかる。
EV充電による走行可能距離を懸念している潜在的な顧客が多いことを考慮すれば、移動途中で迅速に充電できるようなネットワーク構築が鍵だとEV業界では考えられている。
急速充電ステーションは、より強力な直流(DC)電流を供給することにより、最大7倍も速くEVを充電できる。
最大400キロワットを供給する最速のDCステーションであれば、10分以内にEVの充電を完了できる。現在一部のAC充電ポイントでは10─12時間かかることを考えれば、大幅な改善となる。
ガソリンスタンドに立ち寄る程度の短い時間で、再充電が可能だと分かれば、顧客もより長距離のドライブに対して安心感を抱くだろう、と開発側は期待している。
独自動車メーカー各社とフォードがCCS方式の急速充電ステーション導入に向けて設立した合弁事業では、この点を念頭に置いて、シェル<RDSa.L>やOMV<OMVV.VI>、ドイツのタンク&ラスト、そして小売のサークルKなど、欧州でガソリンスタンド・チェーンを展開する企業との協力を進めてきた。
既存の自動車メーカーにとって、EV競争で優位に立つことは、テスラによる攻勢に揺らぐ自動車産業における生き残りを意味する。
イーロン・マスクCEOが率いるテスラの2016年販売台数は7万6230台。これに対し米自動車産業の先駆者フォードの販売台数は665万台と大きく凌駕しているものの、テスラの時価総額は、いまやフォードを110億ドルも上回っている。
とはいえ、フォードと手を組んだ独自動車メーカー各社は、潤沢な資金によって長期的には自らが優位に立てると信じており、この競争において充電テクノロジーが重要な要素になると考えている。
<転機は訪れるのか>
今のところ、欧州と米国では引き続きCCS、スーパーチャージャー、チャデモの規格導入が続いており、中国ではGB/Tが推進されている。プラグ形式をめぐる戦いで何が勝ち残るのか、判断は時期尚早のようだ。中国市場を断念する自動車メーカーはないだけに、なおさらだ。
例えばテスラは昨年10月、同社の「モデルS」と「モデルX」について、中国向けにGB/T規格に適合する2つめの充電ポートを追加するための変更を加えていると発表した。
競合他社のほとんどが、EV販売台数について野心的な目標を掲げる中国に向けて、自社製品をGB/T規格に対応させている。ただし一部の業界関係者は、中国がいずれかの時点で、違う規格を採用してくれることを今も期待している。
テスラは今のところ独自の充電ネットワーク構築にこだわっているものの、チャデモ、CharINのイニシアチブにも参画している。また、北米や日本のテスラ車オーナーがチャデモ規格の充電ステーションを利用可能にするアダプターも販売している。
どこかの時点で競合する充電規格への合流を検討するかとの問いに対して、テスラはコメントを拒否しているが、アナリストによれば、そのような動きがあれば、プラグの覇権を巡る争いに転機が訪れる可能性があるという。
テスラの広報担当者は「テスラは以前からずっと、顧客のために最初から充電インフラを用意しておくことを非常に重要だと考えていた」と語り、EV充電へのあらゆる投資を歓迎していると付け加えた。
欧州におけるチャデモ陣営の代表者トモコ・ブレック氏は、EV産業がまだ初期段階にある以上、どの規格が優位に立つかという議論は無益であり、メーカー各社は自社製EV開発に尽力すべきだと語る。
また、バッテリー駆動のEV充電に関しては、今後も常に複数の方法が並立するとの見方もある。
コンサルタント会社フロスト&サリバンの主任アナリスト、ニコラス・メイヤン氏は、「化石燃料を使う車なら、世界のどこに行っても燃料を補給できる。これが理想的なあり方だ」と言う。「だが、EVに関しては、そんな状況にはならないだろう」
(翻訳:エァクレーレン)