[31日 ロイター] – 北朝鮮と米国の間で核戦争の危険性が高まる中、米国防総省は、企業と協力して急性放射線症候群(ARS)の効果的な治療薬開発に向けて動き出した。
世界的に孤立する北朝鮮が昨年11月、米国本土に到達可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を実施して以来、米朝間の緊張は一段と高まっている。
ワシントンの衛生当局者は、もし万一核攻撃を受けて、放射能中毒が拡大した場合でも、対処するのに十分な治療薬の備蓄があると言う。
だが、いくつかの製薬会社の声明や政府が発表した提携は、国防総省が核攻撃に備え、軍人と市民の両方を守るため、さらに効果的な治療薬の開発に本格的に乗り出したことを示している。
国防総省の2018年予算では、こうした医療対策向けに前年比60万ドル増の390万ドル(約4億3000万円)を計上している。
しかし、クリーブランド・バイオラブ<CBLI.O>や未上場のヒューマネティクス・コーポレーションなどの企業と交わした契約書にある実際の数字をみると、同省は少なくとも1300万ドルの資金を提示しており、関連する他部署も関与している可能性を示唆している。
開発に成功した製薬会社への報酬はばく大だ。政府は2013年、30年近く使われているアムジェン<AMGN.O>の白血球減少を改善する「ニューポジェン」を備蓄するため、1億5700万ドルを費やした。だが、同医薬品を含む備蓄薬は、被ばくによるある特定の後遺症に効果が限られるため限定的だった。
トランプ大統領が先月、増額された7000億ドルの軍予算に署名したことにより、北朝鮮の脅威に対抗するための対策に重点が置かれ、新薬開発予算を膨らませる可能性があると、医療専門家は指摘する。
開発段階にある放射線障害の新薬は、白血球、赤血球、血小板の減少を改善する。何度も血液検査をしたり、事前に検査をする必要もない。
前出のクリーブランド・バイオラブと非公開企業の米ニューメディシンズ、そしてイスラエルのプルリステム・セラピューティクス<PSTI.O>は、それぞれ開発の最終段階にある。一方、ヒューマネティクスは経口薬の治験をまだ開始していない。
プルリステムは、被ばくする前に注入すれば、放射能中毒の重症化を予防あるいは症状を緩和することが可能な注射剤を開発している。
「米軍への予算拡大は、新薬の開発を早める可能性がある」と、同社北米部門のカリーヌ・クラインハウス副社長は指摘。
「ロイキン、ニューラスタ、ニューポジェンのどれも、白血球にしか作用せず、赤血球と血小板には効果を及ぼさない。(試験薬)PLX‐18の投与においては、被ばく量の事前把握や一連の血液検査といったことは不要だ。したがって、多くの被害者が出ているような状況に適している」と、自社の試験薬についてクラインハウス氏は語った。
米航空宇宙局(NASA)も昨年8月、米厚生省傘下の生物医学先端研究開発局(BARDA)と提携し、宇宙放射線が宇宙飛行士に与える影響に対処すべく新薬の開発を行っている。
NASAの放射線学専門家、ホングル・ウー博士はロイターに対し、被ばくする前に摂取できる薬に関心があることは間違いないと語った。
被ばく後に服用する治療薬「ヘママックス」を開発中であるニューメディシンズのレナ・バジーレ最高経営責任者(CEO)は、被ばくする前に服用する治療薬は、軍職員や救急隊などの初期対応者に限られるため、成長する機会が損なわれるとの見方を示した。
「事前に服用する薬は民間人に与えることができない」とバジーレ氏は言う。
プルリステムは、自社治療薬をがん患者の治療にも拡大する計画だと、共同CEOのYaky Yanay氏は明らかにした。10億ドルを売り上げる可能性があると同氏はみている。
「さらにずっと大きな抗がん剤市場に注目している」とYanay氏は語った。
(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)