[シアトル 2日 ロイター] – 米電気自動車(EV)大手テスラ<TSLA.O>が昨年11月に発表した電気トラック「テスラ・セミ」のプロトタイプをどう実現するか、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は多くを語っていない。
だが、来年予定する同トラックの市場投入に向けて、テスラが、ビール世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ<ABI.BR>や米飲料大手ペプシコ<PEP.N>、米宅配大手ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)<UPS.N>と連携し、これら企業の関連施設に充電ステーションを建設する方針であることが、ロイターの取材で分かった。
今回初めて明らかになった提携関係について、その詳細は現在策定中だが、関係各社によれば、充電ステーションのデザインや技術はテスラが提供することになるという。建設費用をどの程度テスラが負担するのか、もしくは、テスラに費用が支払われるのかについては、明らかにしなかった。
今回名前の挙がった3社は、セミの事前予約をした大手9社に含まれる。
テスラが掲げた野心的な開発スケジュールを本当に実行できるのか疑問の声も上がる中、今回の提携は、顧客側企業が同社の取り組みを真剣に受け止めていることを示している。
また、テスラ側も、巨大トラックをどう充電するかという難題解決に向けて取り組んでいることを意味する。
ロイターの取材に応じた企業によると、自社施設内に充電施設を設置することがその第一歩になるという。セミの走行ルートは、電池が空になる前に拠点施設に戻れる距離内に限定される。
セミ100台を事前予約したペプシコは、施設やコストを他社と共有することを検討する可能性があると述べた。同社子会社フリトレーのマイク・オコネル上級取締役によると、テスラとの間で充電に関する協議をすでに複数回行ったという。
「われわれは、エネルギーとエンジニアリングに関してたくさんの知見を持っている。テスラも、間違いなく、エネルギーと充電について専門知識を提供してくれるだろう」と、オコネル氏は話した。
この提携とは別に、テスラは、自社の充電ステーションで一般のEVトラック向けに電気販売を行う計画も進めている。テスラ側と協議した顧客や運輸産業幹部が明らかにした。
テスラはすでに、自社製EV用に開発した充電設備「スーパーチャージャー」を、世界の1100カ所以上に設置している。マスクCEOは、太陽光発電を利用し、セミのバッテリーを30分で満タンにできる「メガチャージャー」網の整備に言及していた。
だが、どれほど迅速にテスラが商業トラック用の強力な充電施設網を構築できるかは定かではない。
テスラの経営は赤字続きで余裕のない状態だ。新型EV「モデル3」の量産目標達成が遅れ、苦境に立たされている。充電インフラの実現はもちろん、セミの2019年市場投入目標の実現についても疑問視するアナリストやトラック業界関係者もいる。
米カリフォルニア州フレモントに本社を置くテスラの広報担当者は、充電ステーション建設に向けて大口顧客と緊密に連携していることを認めた。だが、提携の詳細や、自社のトラック充電網の建設計画については、コメントしなかった。
アンハウザー・ブッシュは、大規模な醸造施設や重要拠点に、自社が事前予約した40台のテスラ・セミ向け充電設備の設置を検討していると、サプライチェーン担当の上級取締役ジェームズ・セムブロット氏は語った。
「われわれにとって重要だったのは、この最先端のテクノロジーに大きく投資して、その中に自社の地位を築くことだ」と同氏は話した。
12月にセミ125台を事前予約したUPSも、テスラと緊密に連携して自社施設に充電ステーションを設置する方向だ。同社の技術ディレクター、スコット・フィリップ氏が明らかにした。
スーパー大手ロブロー<L.TO>は、事前予約した25台のテスラ・セミの充電施設に太陽光発電を使う方向だと、同社の広報担当者は語った。同社では、それに必要なデザインや技術について、テスラのほか数社を検討しているという。
自前の充電施設の建設に必要なコストについて、明らかにした社はなかったが、電気バスを運行する米国の交通会社が、ヒントを与えてくれるだろう。カリフォルニア州大気資源局の2016年報告書によると、電気バス6台用の急速チャージャー施設のコストは24万9000ドル(約2700万円)だ。
しかし、アナリストや自動車業界幹部は、商業トラック用の充電施設は、容易に数百万ドル単位になり得ると指摘する。それは、充電する大型トラックの台数や、そのエネルギー源、そして地域にある既存のエネルギーインフラなどの要件に左右されるという。
<自動車メーカーか電気会社か>
テスラはトラック業界に革命をもたらす野心を抱いて、昨年11月にセミのプロトタイプを発表した。
カリフォルニア州ホーソーンで開かれた華やかな発表会で、マスクCEOは、スマートなデザインのセミは、1回の充電による航続距離は最大約800キロで、通常のディーゼルトラックに比べて、クリーンで運用コストの安い選択肢になるとぶち上げた。
テスラのウェブサイトによると、一般的ディーゼルトラック価格が約12万ドルのところ、セミの基本価格は15万─20万ドルだ。
米ウォルマート・ストアーズ<WMT.N>や食品流通大手シスコ<SYY.N> などの企業が事前予約を入れ、それが報道されて大きな宣伝効果を得た。
だが、最も明らかなセミの想定顧客となるトラック輸送会社の反応は鈍い。
ワーナー・エンタープライズ<WERN.O>やYRCワールドワイド<YRCW.O>、ダセク<DSKE.O>、オールド・ドミニオン・フレイト・ライン<ODFL.O>などの輸送会社は、テスラが約束するセミの充電時間や航続距離、価格や荷重などに疑問があるとして、現段階で事前予約を見合わせている。
ワーナーのデレク・レザーズCEOは、自身がテスラが実用的な電気トラックを開発できることを疑う「否定主義者」ではないと話す。
「そのうち実現されるとは思う。ただ、極めて強気な開発スケジュールだ」と、レザー氏は言う。
それでも、公共充電インフラが不足すれば、電気トラックは米国などでの長距離輸送には不向きなものになる。
マスクCEOが、太陽光発電を使った「メガチャージャー」施設計画で解決を試みようとしているのが、この問題だ。11月の発表イベントで、同CEOは、こうした施設での充電は1キロワット時あたり7セントに設定することを「保証する」と請け合った。
これは、米政府の推計コストでも低い方だ。米国立再生可能エネルギー研究所の2017年の報告書によると、商業用太陽光発電
は1キロワット時あたり9─12セントで、連邦政府の補助金が入ると同6─8セントとなる。
テスラの狙いは、米国の電気会社から余剰電力を安く買い、巨大なバッテリー施設で蓄電し、セミのドライバーに売って利益を稼ぐことにあると、顧客や業界幹部は指摘する。
だが、その戦略にはリスクも伴う。
「自動車メーカーから、電気供給事業者への転換だ」と、トラック・エンジン製造の米ナビスター・インターナショナル<NAV.N>でエンジニア部門の副代表を務めるダレン・ゴスビー氏は言う。同社は、2019年後半までに中型電気トラックを市場に投入する予定だ。
テスラの共同創業者で、今は自ら立ち上げた会社「ライトスピード」で産業トラック向け電気パワートレーンの開発を手掛けるイアン・ライト氏は、トラックの充電施設はテスラにとって大きな儲けにならないとみている。
同氏は、充電施設1カ所あたりの整備費用は1500万ドルになると試算する。「テスラがエネルギー仲介事業をやっても、利益は出ないと思う」と、ライト氏は話した。
(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)