昔から正月にお屠蘇を飲む習慣があります。疫病の予防に効果があると言われていましたが、今それを信じて飲む人はほとんどいないでしょう。これを理解するには、時代背景を考えなければなりません。
お屠蘇は三国時代の名医である華佗が考案したと言われています。昔、中国の北部地域の寒さは今より厳しく、衣服、住宅、食事などの防寒もあまり良くなかったので、寒疫が流行った時期がありました。東漢時代、寒疫を治療する専門書『傷寒論』を書いた張仲景の200人の親族の中で、10年の間に100人近くが寒疫によって亡くなりました。その時代、寒疫の予防が如何に大事だったかが分かるでしょう。
では、お屠蘇には本当に疫病を予防する効果があるのでしょうか。非常に良い効果があります。その理由は、漢方医学の古典『黄帝内経』に書かれています。「冬傷於寒、春必病温」という記載があり、つまり、冬の間に寒の邪気が体に侵入し、その時に発症しなくても、春になったら温病(春の疫病)になるということです。このような春に発症する温病を予防するために、冬の間に体に侵入した寒邪を追い払う必要があるのです。お屠蘇はまさに、この役割を果たしています。
お屠蘇をいただく旧正月の前後は寒さが一番厳しい時期です。この時期に体の中に侵入した寒邪を追い出すには、強い辛温性の生薬が必要です。そのために烏頭、附子、山椒、桂枝、防風などの辛温散寒作用の強い生薬が使われました。その上、胃腸を強くする白朮、胃腸から毒を出す大黄も使用されました。生薬の効果を増強するために、血液循環を促進する効果のあるお酒(中国では焼酎を使う)を合わせれば、一層寒邪を追い出す効果が強くなります。旧正月の間、身体を休めているときにお屠蘇を飲んで、少し汗を出して、身体に溜まった寒邪を出せば、きっと素晴らしい予防効果があったはずです。
一方、保温条件がよくなった現代社会では、お屠蘇があまり重視されなくなりましたが、少し前まで漢方薬局に正月用のお屠蘇が用意されていました。しかし、最近はあまり売れなくなり、人に差し上げても喜んでくれる人が少ないので、お屠蘇を用意する薬局は少なくなりました。必要であれば、漢方薬局で入手できます。お屠蘇の処方は必ずしもみな同じではありません。薬局によって、独自に工夫された場合もあります。特に烏頭、附子のような毒性のある生薬は、ほとんど使われていないようです。今日、日本で販売されているお屠蘇は主に紅花、浜防風、蒼朮、陳皮、桔梗、丁子、山椒、茴香、甘草、桂皮などの生薬が含まれています。
(漢方医師・甄 立学)
大紀元日本、EPOCH TIMES JAPAN より転載