焦点:債券利回り上昇とユーロ高、ECBの出口脅かすか

[ロンドン 20日 ロイター] – 欧州中央銀行(ECB)は年内に量的緩和を終了し、金融政策の正常化を進めたい方針だ。しかしユーロ高と国債利回りの急上昇によって金融環境が想定以上に引き締まれば、出口政策に支障が出かねない。

ドイツの長期金利は過去2カ月で約2倍に跳ね上がった。好調な景気指標や米国のインフレ率上昇、ECBの緩和が早期に終了するとの観測が相まった結果で、現在は0.74%前後と2年半ぶりの高水準に近い。

金融環境が引き締まれば、2%弱という物価上昇率目標の達成が難しくなるかもしれない。

ABNアムロの上席債券ストラテジスト、キム・リュー氏は「金融環境が引き締まったため、物価目標達成までの時間が長引くと想定すべきところだ」と指摘。「しかし、だれもがECBは早期に量的緩和を打ち切ると予想しており、利上げ観測も高まっている。ECBがこの状況をどう打破するか見守りたい」と語った。

ECBは、量的緩和に伴う2兆5500億ユーロの債券買い入れを、少なくとも9月30日まで続けると表明している。エコノミストを対象としたロイター調査では、その後も規模を縮小して買い入れを短期間続けるが、年内には打ち切ると予想されている。

ただ欧州委員会の指数によると、ユーロ圏の金融環境は2014年末以降で最も引き締まっている。

ABNアムロのシニアエコノミスト、アライン・シューリング氏によると、ユーロ圏の国債利回りの加重平均は1.23%前後で、ECBが12月に予想した2018年平均の1.1%を上回っている。

また、ユーロの実効レートは1年前に比べて既に7.5%上昇。ECBの12月の予想では、今年の平均上昇率は2.8%にとどまると想定されていた。この2つの要因が金融環境の引き締まりに影響しているという。

BNPパリバによると、ユーロが10%上昇するとインフレ率は向こう1年間で0.5%ポイント近く低下する。

<上昇速度>

景気が良くなれば国債利回りが上昇するのは当然だが、問題はそのスピードだ。

利回りの急上昇に驚き、多くのアナリストは今年の利回り予想を上方修正した。

ピクテ・ウェルス・マネジメントのエコノミスト、フレデリック・デュクロゼ氏は、絶対水準で見れば、金融環境の引き締まりは景気拡大を台無しにするほどではないとした上で、「為替レートであれ金利であれ周縁国の国債利回りスプレッドであれ、重要なのは変化のスピードだ。これが懸念の種であり、ECBの形勢を一変させかねない要因だ」と説明する。

ECB当局者は今のところ、「フォワード・ガイダンス」を変更する兆しを見せていない。プラート専務理事は最近の市場の変動について、金融安定を脅かさない限りは「しのげる」と発言。クーレ専務理事は、ボラティリティ(変動率)の上昇はおおむね株式に限られているとの見方を示した。

アナリストによると、南欧諸国の国債利回りの上昇が限定的なため、幹部らは安心しているのかもしれない。スペインやポルトガルの10年国債利回りは、ドイツ国債とのスプレッドが過去8年間の最低水準付近で推移している。

それでも米国債利回りが急上昇すれば、欧州の借り入れコストにも上昇圧力が掛かる恐れがある。

ラッセル・インベストメンツのシニア・ポートフォリオ・マネジャー、デービッド・ビッカーズ氏は「ECBにはどうにもできない大きな問題が、米国債利回りの上昇だ」と述べた。

(Dhara Ranasinghe記者)

 
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