約40年前に、インドのサロジニ・アガーワさんはバイク事故で同乗した8歳の娘を亡くしました。一時は愛娘を失った悲しみから抜け出せず、自分を責めてばかりいましたが、あるきっかけで奮い立ち、人生を再出発することができました。
ショックからなかなか立ち直れないアガーワさんはある日、亡き娘と同世代で、凄惨な境遇に置かれている女の子がたくさんいることにふっと気づきました。住む家もなく、親の愛情にうえ、安定した生活を夢見る女児たちの姿は、自分の娘と重なりました。そして、意を決して彼女たちを助けると決心しました。
貯金を使い果たして、3LDKの自宅を保護施設に改造。1985年、家無き女児を受け入れる「Manisha Mandir」と名付けられた施設が正式に旗揚げしました。一番はじめに迎えたのは、母親が出産時に亡くなった聾啞(ろうあ)児でした。
そして間も無く、母親の死去によりホームレスになった姉妹、売春宿から救い出した子など施設の住民が次々と増え、中には、門前に置き去りにされる産まれたばかりの赤ん坊もいます。
娘をなくしてから出産しなかった夫婦にとって、施設の子どもは我が子同然で、アガーワさんの心のキズも次第に癒されました。
一方、施設を維持するのは容易いことではありません。夫婦は様々の困難に直面し、日々追われる生活を送ってきましたが、いつでも途中で放りだすことはありませんでした。
子どもたちに愛情を注ぎ、教育を受けさせ、一人前に育て上げることは、自分たちの使命としています。
今の施設には図書室、パソコンルーム、手芸部屋のほか、運動場やテレビルームなども増設されました。
子どもたちがここですくすくと成長し、18才になったら「卒園」します。夫婦によると、これまでの33年間に収容した孤児は800人を超え、名門大学を卒業し銀行や学校などに就職したエリートや、結婚して幸せな家庭を築いた子もたくさんいます。
すでに80歳高齢のアガーワさんですが、可能な限り施設を継続していくと意気込んでいます。