焦点:刑務所に高齢化の波、寝たきり介護も 再犯防止が急務

[徳島市/東京 14日 ロイター] – 受刑者の高齢化刑務所の日常を変えている。寝たきり受刑者は介護施設を想起させ、担架を押して現場に急行する刑務官の姿は、救急病棟の医師に重なる。刑を執行するという刑務所の役割は、医療や介護にその裾野を広げつつある。高齢者の再犯率は高く、出所後の再犯防止と円滑な社会復帰は、喫緊の課題となっている。塀の中と外が、それぞれ抱える課題に迫った。

<老いる刑務所>

「ゆっくりでええけん、やれる範囲でやっていきましょうか」──。

指導員が声をかけると、39人の高齢者が体を動かし始める。いすに腰かけたまま上半身を反らせていくが、動作は一様に鈍い。

徳島刑務所内にある「機能促進センター」では、毎日3回それぞれ10分程度、受刑者の健康維持を目的に体操の時間を設けている。平均年齢は68.1歳。体の衰えなどを理由に通常の刑務作業に従事できない受刑者ばかりを集めている。日中の作業は、部品を組み立てたりやすりで削ったりと、内職のような負担の軽いものが多い。

同刑務所は、反社会的勢力や再犯者を中心に刑期が10年以上の受刑者を収容する。所内で年を重ねる受刑者が多いため平均年齢は高くなり、集団生活に後れを取る受刑者が増えたことから、高齢者専用棟として2016年12月にセンターを開設した。

同刑務所の全受刑者に占める65歳以上の割合は17年末時点で25.5%と、ここ5年間で約6ポイント増加した。

高齢化の波は、全国の刑務所に押し寄せている。法務省によると、1年間で新たに刑務所に入所する受刑者は06年の3万3032人から16年には2万0467人まで減少。一方、65歳以上が占める割合は、同じ期間で5.7%から12.2%に増えた。

「自分の体の動作自体が、少しずつ緩慢になってきているのが分かりますね。ここ数年、階段の上り下りがきつくなってきましたし、外での全体行動でもそう思うような時があります」

暴力団の抗争相手を殺害した罪で懲役13年の判決を受けた男性受刑者(70歳代前半)が、センターに身柄を移されたのは17年3月。満期出所まで5年以上が残るが、すでに体の衰えを感じつつある。

強盗殺人などの罪で無期懲役の判決を受けた81歳の男性受刑者は「外に出られたらすぐ仕事ができるように、毎日足腰を鍛えているんです。体を鍛えて、どんな仕事でもできるように、そういう気持ちでいます。おふくろが今103歳なので、生きてる間に出たいんですよ」と話す。

高齢受刑者の身体機能の維持は、刑を円滑に執行するためにも必要だ。「懲役受刑者である以上、何らかの刑務作業をさせなければいけませんが、寝たきりになってしまうと本来の目的である刑の執行が妨げられてしまいます」。同刑務所の山口賢治処遇部長は、受刑者が要介護者にならないような取り組みが必要だと説明する。

<刑務所内の介護現場>

徳島刑務所には1人、寝たきりの高齢受刑者がいる。殺人、強姦、現住建造物等放火などの罪で無期懲役となった92歳の男性だ。刑務作業は行えず、所内の「病棟」と呼ばれる施設に収容されている。入浴や排せつの世話をするのは非常勤の介護専門スタッフ。天気の良い日は車いすを押して屋外に出る。

「今日はええ天気よ」「寒ないか」。スタッフが男性の耳元で声をかけるが反応は薄い。男性は車いすの上で両目を固く閉じたまま、動く気配はみえない。

法務省の方針のもと、17年度から配置されることになった介護専門スタッフだが、1日の勤務時間は3時間程度。スタッフ不在の土日などは刑務官が代わりに対応するため、以前と比べて刑務官の負担が大幅に減ったとは言い難い。

それでも、山口処遇部長は「専門スタッフの方がいらっしゃらない時間に、急患が出た場合には対応しなくてはいけないので、その時には大変参考になります」と話す。取材班が施設内を移動している最中に、担架を押しながら刑務官が現場に急行する場面に出くわすこともあった。

受刑者の症状が重篤化し長期的な治療が必要となった場合は、全国4カ所にある「医療刑務所」に移される。収容者の数は17年までの10年間で、902人から552人に減った。

しかし、収容者が減っても「現場にゆとりが出ているとは言えない」(法務省関係者)のが現状だ。医療刑務所も含めた矯正施設では医師不足が慢性化し、定員割れの状況が続く。今年2月1日時点での医師の数は287人と、定員の328人を下回る。

<再犯を防ぐ>

再犯率の高さが、刑務所の高齢化に拍車をかけている側面もある。犯罪白書によれば、2年以内に刑務所に再入所する割合は15年時点で29歳以下が11.1%であるのに対し、65歳以上は23.2%と2倍以上だ。高齢で身寄りがなく、出所しても定職や定住先を見つけられないことが再犯の背景にあるとみられる。

東京都内のある更生保護施設では、出所後に行き場のない元受刑者21人を一時的に保護している。保護期間は最長6カ月で、そのうち初めの55日間は無料で食事が提供される。

ここに身を寄せる71歳の男性は17年10月に出所。これまで詐欺や窃盗で計7回、約15年間にわたって断続的に刑務所暮らしを送ってきた。前回出所した時は仕事も住まいも見つからず、わずか5カ月で刑務所に戻ってしまったという。

「住まいも仕事も探してたんですけど、高齢のために断られたというのもありました。部屋を借りるにしても、ある程度お金がいるので。それもなかったですから。部屋は借りられない、仕事も見つからない、それが理由でした」と振り返る。

今回、男性はすでに職を見つけた。しかし、男性によると、住まい探しは仕事よりも難しい。契約の際に、現在の居住地として更生保護施設の住所を記入しなければならないからだ。元犯罪者であることを先方に感づかれ、断られてしまうことが多いのだという。

「住むところと仕事さえあれば、何とかやっていけるんですよ。だけどそれがないために、食べなきゃなんないってことで、万引きとかをする人もいると思うんです。刑務所に入っていれば、食事と部屋はありますから。自分は違いますが、知っている人の中には、自ら好んで刑務所に入る人もいました」と話す。

更生保護施設は全国に103カ所あり、最大で2383人の受け入れが可能だ。だが、法務省の統計によると、16年に満期出所した9649人のうち、行き場のない人は約半数の4739人に上る。

高齢者とはいえ、罪を犯したことのある人に対してどこまで支援すべきかという問題もある。自民党の再犯防止推進特命委員長を務める田中和徳衆院議員は、刑務所を巡る「コスト意識」を広く浸透させる必要があると指摘する。

田中衆院議員によると、犯罪捜査から刑務所を出所するまで、裁判費用や食費、刑務所の維持管理費などで1人当たり平均で約1000万円の税金がかかる。「この費用を考えると、生活保護をきちっとしてあげる方が、国民負担は少なくて済みます。こうしたことも広く国民に伝えていかねばならないと思っています」と語る。

その上で、再犯防止には国民の意識改革と社会全体での取り組みが欠かせないと説く。

「満期で出所してしまえば、否が応でも私たちの社会に戻ってくることになります。こうした現実を直視せず、見て見ぬふりの状態が日本ではずっと今日まで続いているのです。刑務所出所者のためということではなく、自分たち自身のために、国や地方自治体、国民を挙げた対応が必要だと考えています」

(梅川崇、竹中清 編集:田巻一彦)

 
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