焦点:介護ロボット、高齢化社会の「切り札」となるか

[東京 30日 ロイター] – 日本の介護現場には現在、最先端のロボットが続々と登場し、様々な介護ニーズに応えている。高齢化の進む日本では、介護人材の不足もあり、いずれ数千億円規模の介護ロボット市場が誕生すると予想されている。

しかし、価格や扱いやすさの面でまだ高いハードルがあり、ロボットの本格的な普及は期待通りに進んでいない。

<ロボット介護の最先端現場、高齢者も受け入れ>

都内中央区にある特別養護老人ホーム「新とみ」では、介護ロボットが大活躍中だ。高齢女性の入居者がアザラシ型ロボット「パロ」をなでると、頭を向けて本物のアザラシの鳴き声で反応する。人型ロボット「ペッパー」は体操の時間をリードするインストラクターだ。歩行支援ロボット「Tree」は障害のあるお年寄りに寄り添いながら「右、左、よくできましたね」と優しい女性の声で足の動きを誘導する。

ここでは20種類におよぶ様々な介護をロボットの力を利用して行っている。日本が直面する高齢者人口の急増と介護者の不足という課題解決に向けて介護ロボットを導入する最先端の現場ともいえる。

ロボットによる高齢者の介護は、欧米では抵抗感があり、あくまで介護は人の手で、という考え方が根強い。ただ、日本では以前から人気アニメなどで描かれることも多く、受け入れられやすいのではないかとみられている。

84歳の女性入居者は「ペッパー」との体操の時間を終えると「こういうロボットができたのは素晴らしいことだと思いますよ」と顔をほころばせる。「私は家族がありますが、一人暮らしの方が多くなり、話し相手もあまりいない中でロボットと会話できたら、人生が楽しくなるんじゃないかと思います」と話してくれた。

最先端の介護ロボットと呼ばれる機器は他にも登場している。サイバーダインが開発したロボットスーツ 「HAL」は人を持ち上げる力を増強する。さらにパナソニックの開発したベッド「リショーネPLUS」はベッドが縦半分に分かれて、そのまま車いすとなる。介護者がベッドから体を持ち上げ、椅子に移動させる力仕事は不要となる。

リーフが開発した歩行支援期「Tree」は歩行者の次の足場を示しつつ、バランス確保の支援もしてくれる。

<普及にはコストと操作習得の壁>

2025年に介護人材38万人分の不足をロボットで補おうと、政府も補助金を拡大している。経済産業省では「ロボット介護機器開発・標準化事業」として18年までの3年間に合計47億円の補助金を投入。厚生労働省でも「介護ロボット等導入支援事業」として15年度補正予算で52億円を5000介護施設に支給した。

ただ現実には、それでも全国で1万2000を超す介護保険施設全体に介護ロボットは普及していない。いくつかの課題が解消していないためだ。

第1は費用面のハードルだ。

独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)はアザラシ型ロボット「パロ」の開発に10年以上を費やし、およそ20億円の補助金を投入した。触れると反応し、録音された本物のアザラシの鳴き声をあげ、目が輝いて頭を動かすという、ごく単純な動きだが、その価格は1台40万円だ。

民間企業の製品でも、パナソニックの介護ベッド「リショーネ」は90万円、パワードスーツ「HAL」は月々のレンタル料が10万円に上る。

このため、大方の介護施設では自治体の補助金を利用し、個人で利用する場合は介護保険を利用することになる。

しかし利用台数はまだ僅かだ。「パロ」の場合、世界に5000台が供給され、うち3000台が日本国内で利用されているに過ぎない。

第2に、ロボット導入後も介護職員の負担や労働時間は必ずしも削減されない。

「新とみ」では実際、それほど労働時間が削減されていない。「新とみ」を運営する社会福祉法人「シルヴァーウィング」理事長・石川公也氏は、積極的に介護ロボットを導入している理由について「雇用環境を改善したかった」と語る。腰痛などの職員の負担を回避し、安全性を高める目的を強調、「結果的に職員の安心感につながり、入居者も十分なケアを受けていると感じることがてきる」という考え方だ。

第3は、介護職員にとってロボット操作が負担になるという点だ。人型ロボット「ペッパー」の場合、既に500介護施設に導入され、ゲームや体操、初歩的な会話を行っている。しかし介護職員にとってその操作が難しいと感じるケースがあると指摘するのは、「ペッパー」の開発企業であるソフトバンク・ロボティクスの藤原翔平氏だ。介護は次々とやるべきことが変わるので、職員が操作しなくともペッパーが自らスケジュールに応じて自分でなすべき介護に動いてほしいとの声もあり、「そうした機能を今年中に導入したいと思っている」という。

<高齢化がロボット需要増大をもたらす日>

団塊の世代があと数年で後期高齢者となる日本にとって、こうした課題を解消して介護ロボットの普及を図ることが喫緊の課題だ。

人手不足を補うために外国人の介護人材受け入れ拡大を図ろうにも、今のところ遅々として進んでない事情も拍車をかける。

入国管理法改正により、16年に外国人が介護業務に従事するための在留資格を設ける介護ビサという新たな制度を創設したものの、実際にこれを受け取った外国人は17年末現在で18人だけだ。日本語の国家試験が高いハードルとなっている。

こうした中、政府には、国内での介護ロボット普及に加え、海外にも輸出することで成長産業として育成する狙いがある。

ドイツ、中国、イタリアなど日本と同様の人口問題を抱える国では介護ロボットのニーズがある。経済産業省ロボット政策室の安田篤室長は、「他国でも高齢化問題がいずれ起こってくる」と指摘する。実際、昨年は「新とみ」に世界各国から100グループ以上が見学に訪れているという。

日本製ロボットの輸出も始まっており、パナソニックでは台湾向けに介護ベッドの出荷を始め、「パロ」はデンマークの老人ホームに400台が導入された。

今のところ世界の介護ロボット市場はまだ小規模で、国際ロボット連盟によると、16年現在、1920万ドル(20億円強)に過ぎない。しかも供給側のほとんどが日本製ロボットだ。もっとも日本での市場規模は今後急拡大する見通し。経済産業省の試算では、市場規模は日本の人口の3分の1が65歳以上となる2035年までには、4000億円に膨らむ。

オックスフォード人口問題研究所のジョージ・リーソン所長は「これは潜在的な大規模マーケットだ」と指摘。「人々は日本の高齢化社会に目が覚めるだろう。ロボティクスが高齢化社会のニーズに応えるパッケージの一つであることに」と語る。

(マルコム・フォスター 翻訳:中川泉 編集:石田仁志  )

 
関連記事