[ソウル 28日 ロイター] – 北朝鮮の非核化に注目が集まっているが、専門家は過去の経緯から実現に懐疑的だ。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と今月初めに会談した韓国特使団によると、金委員長は非核化の用意があると言明し、トランプ米大統領とできるだけ早く協議したいと述べた。
金委員長と今週会談した中国当局者も、金委員長から非核化の誓約を得たとしているが、金委員長の訪中を報じた北朝鮮の国営メディアは、これまでのところ核問題には言及していない。
核兵器は、北朝鮮が長年かけて開発してきた「正義の秘刀」(国営メディア)。金委員長にとって身の安全の保障となっているだけでなく、体制の正当性と権力の維持に不可欠で、放棄を決めれば政策の劇的な転換となる。弾道ミサイルの発射実験では記念碑が建てられ、開発にあたる科学者は国民の英雄だ。
アナリストは、金委員長が突然核を放棄するとは考えていない。自身が勝利したという印象を国民やエリート層に与えられるよう、のらりくらりとした長期的なアプローチを取るだろうとみている。
ジョンズ・ホプキンス大の北朝鮮関連ウェブサイトの専門家、マイケル・マッデン氏は「金委員長は国民に何らかの譲歩を迫る必要がない。非核化は実現までに最低でも10年かかるから、なおさらだ」と話す。他国との交渉では「1つか2つの大きな譲歩に応じるのではなく、小さな合意をいくつも積み重ねていく姿を描いていると思われる」という。
<米の譲歩が不可欠>
過去に北朝鮮との交渉にあたった韓国の複数の元当局者は、政策の大転換は困難だが、実現不可能ではないとみている。それは金委員長が国民に誇れるような、大幅な譲歩を米国から引き出せた場合だ。
元韓国統一相の金炯錫氏は「金委員長は核兵器保有によって米国と国際社会を降伏させたというストーリーを広めたいのだろう。話し合いが順調に進んで制裁が解除され、北朝鮮経済は上向く。そうなれば金委員長の非核化の決断は国民の理解を得て、強い支持が得られるだろう」と述べた。
ただ、トランプ政権はこうした展開を見込んでいない。次期大統領補佐官(国家安全保障問題担当)に就くボルトン元国連大使は最近、トランプ氏は近く開く見通しの金委員長との首脳会談で、北朝鮮になるべく早く核開発を止めさせることに焦点を絞るはずだと述べた。
核保有の重要性とこれまで開発につぎ込んだ資金を考えると、金委員長は核兵器開発の放棄で体制が揺らぐことのないように話し合いを慎重に進めると専門家はみている。
金委員長は2011年の実権掌握以降、軍事力と経済の発展に等しく力を入れ、政権内部の勢力の均衡を図ってきた。
インターナショナル・クライシス・グループのシニアアドバイザー、クリストファー・グリーン氏によると、2013年以降は軍部寄りの勢力が台頭してきたが、トランプ大統領との首脳会談で経済発展を重視する勢力の主張が勢いを増す可能性がある。
ただ、軍部やエリート層は非核化の受け入れに消極的だろう。金炯錫氏は「こうした人々は通常兵器だけで安全保障が確保できるとは絶対に考えない。金委員長の(非核化の)判断に抵抗し、開発継続を主張し続けるだろう」という。
中国国営メディアによると、金委員長は「故金日成主席と故金正日総書記の遺訓により朝鮮半島の非核化に尽力することは、われわれの一貫した立場だ」と表明した。
だが、北朝鮮は長らく公の場では核開発を進めないと言いながら、実際には開発を続けてきた。外国との合意が何度も裏切られてきた経緯があるため、多くの専門家は今度も同じ結果になるとみている。
北朝鮮は過去に、朝鮮半島から米軍が撤退し、韓国と日本が米国の「核の傘」から抜ければ非核化を検討する方針を示したこともある。米政府には飲めない要求だった。
「北朝鮮と交渉したことのあるわれわれのような者には、彼らの言う非核化の意味はお見通しだ」と語るのは、元米国務省高官のエバンス・リビア氏。「指導部が国民、とりわけ軍部の理解を求める必要が出てくるとすれば、その内容はせいぜい核開発計画の一部『凍結』だろう」と語った。
(Josh Smith記者、Soyoung Kim記者)