[深セン/上海(中国) 13日 ロイター] – 中国製造業の中心地である深センに複数のハイテク研究所を構える北科生物は、がん治療に役立つ医療ロボットを開発しており、米国など海外市場へ製品輸出する大掛かりな計画を抱いていた。
だが、計画はいまや危機に瀕(ひん)している。
米中貿易戦争の脅威が高まる中で、トランプ米政権が明らかにした厳しい関税対象となる多数の製品リストに、細胞治療に用いられる幹細胞培養を支援するロボットも含まれているからだ。
すでに北科生物では、米関税の影響を開発計画や次年度の発注予定に織り込みつつあり、米国からの受注低下を補うために新たな市場を開拓するよう、営業部門に指示している。
北科生物は、幹細胞関連技術における中国トップ企業であり、政府支援を受け、海外との長年の取引関係もある。同社の状況は、今月3日から4日にかけて北京で行われた米中通商協議を経て、中国の企業社会が直面している現実を浮き彫りにした。
ムニューシン米財務長官と中国の劉鶴副首相の主導により進められた今回の通商協議は、世界2大経済大国による対決姿勢を緩和し、両国の企業に混乱を招く全面的貿易戦争の回避を目的としていた。
貿易紛争を巡り両国がコンセンサスに達した領域もいくつかあったが、「比較的大きな」対立点もあった、と新華社通信は伝えている。
今回の協議は、貿易摩擦が強まりつつある中で行われた。中国の貿易産業関係者5人によれば、中国の主要輸入港では、すでに米国からの生鮮果実の輸入に対するチェックが厳しくなっているという。
一方、中国の製造業界も貿易紛争の行方に神経を尖らせている。
「米中間で発動される制裁措置は、明らかにわれわれに大きな影響を与えるだろう」と、北科生物の創業者フー・シアン会長は深センにある本社で語った。「われわれは完全に自動化された細胞培養ロボットを開発しており、これは制裁関税の対象に入る」
さらに、同社は米国バイヤーからかなりの引き合いを受けており、これにも大きな影響が出る可能性がある、と同会長は付け加えた。
同社の機械は、さまざまなロボット部品が組み込まれ、細胞培地を移動させ、成長に合わせて調整された環境が維持できる。
米国は1300を超える中国製品に対し25%の懲罰的な関税を課す構えを見せており、これには医療機器、ロボット、ミシンなど総額500億ドル(5.45兆円)相当の製品が含まれる。これは米国によるアルミや鉄鋼製品に対する制裁関税に続く動きだ。
米国による制裁関税は、60日に及ぶ協議期間を経た後、6月に発動される。中国は、大豆や航空機など米国の主要輸出品に対する関税を含めた同様の措置による報復を行うと警告している。
<拡張計画の見直しも>
影響を懸念しているのは北科生物だけではない。
中国の医療機器、衣料品、製造業、鉄鋼、印刷分野における企業幹部にインタビューしたところ、広い範囲で貿易戦争の脅威が広がっていることが裏付けられた。
すでに目に見える影響に直面し、米国からの受注減少を受けて他国向け輸出にシフトしたり、あるいは工場拡張計画を中止したりする企業が出ている一方で、残る企業も貿易戦争の脅威がもたらす先行き不透明感に頭を悩ませている。
中国国営メディアは4日、貿易戦争を回避する合意に達することは容易ではないと指摘。「もし失敗すれば、激しい関税合戦の幕が上がり、グローバル貿易は混乱に陥るだろう」と警鐘を鳴らした。
影響を受けるであろう企業には、中国東部の河北省滄州にある河北華洋鋼管も含まれる。貿易摩擦が強まる中で、石油、ガス、水などを輸送するための金属管を製造する同社では、ここ数カ月受注が途切れているという。通常は製造から顧客向け出荷までに3カ月かかる。
米国のバイヤーが、制裁措置が実際に発動された場合に追加的な輸入関税を払うことを憂慮している、と同社の営業担当マネジャー、スティーブン・ユー氏は同社の製造工場で語った。
「今年は米国事業を拡大する計画を立てていた」とユー氏は言う。また、新たな関税政策が発動されることを想定して、米国市場向けの計画の調整を同社が検討していると語った。
貿易戦争が生じても、米国バイヤーがどこかから金属管製品を購入する必要があることに変わりはない。関税を避けるために第三国の仲介業者に製品を販売し、その後米国向けに出荷する「積み替え」が増える可能性が高い、とユー氏は予想する。
南部都市の東莞では、東莞ワゴン集団が高級ブランド向けの金属アクセサリーや国際サッカー連盟(FIFA)公認パートナー企業として製造するサッカー関連商品の米国向け販売が不振に陥っている。だが、これは必ずしも米中貿易紛争とは関係していない。
「米国がワールドカップの出場権を得られなかったことで、予想される売上げは、われわれの試算よりも約60─70%低くなっている」と東莞ワゴンのペリー・チョウ副社長はロイターに述べた。
とはいえ、他の事業分野には貿易摩擦の打撃が及ぶだろうと同副社長は語った。
<貿易戦争は本格化へ>
港湾都市の寧波では、ジョアン・ルー氏が自身の会社が販売する布地用プリンターに値引き圧力が高まっていることに気を揉んでいる。製品の4割は米国市場向けだが、輸入関税の上昇を相殺するため、クライアントが製品価格の割引を求めているのだ。
「業界全体が懸念している」とルーは語る。「今後顧客の注文を受ける際に、値引きするよう圧力がかかることは確実だ。僅かな幅ではない。25%だ。1万ドルの取引だとすれば、関税によって2500ドルも上乗せされてしまう」
彼女の会社が米国市場を放棄することはないだろうと語るルー氏だが、「とはいえ、私たちはいま、他国市場の開拓に全力を挙げている」と付け加えた。
米国は中国にとって最大の貿易相手国であり、米統計によれば、同国は昨年、中国から5060億ドル相当を輸入している。巨額の対米貿易黒字も、対立の一因となっている。
膨大な量の雑貨や玩具、クリスマス用装飾を輸出することで知られる中国都市・義烏では、販売業者が貿易摩擦の影響については慎重な態度を崩さないまま、事態の推移を注視している。
浙江のミシンメーカーでマネジャーを務めるヤン・ディンジュ氏は、広大な商業施設の一角にある自社店舗でオレンジの皮を剥きながら、「携帯電話でニュースを追っている」と語った。
とはいえ、彼の顧客は中東・アフリカの開発途上国市場が中心であり、米中貿易摩擦の影響があっても緩和されるだろう、と予想する。
また、義烏で裁縫用のハサミやミシン部品の販売企業に勤務するチェン・ハイイン氏は、米国の制裁対象品リストにミシンが含まれている理由が分からず当惑する。だが、貿易戦争が本格化すれば副次的な影響が広がるだろうと語った。「本当に対米貿易戦争に突入すれば、その影響からは、誰も逃れられない」
(翻訳:エァクレーレン)