[香港/シンガポール 24日 ロイター] – 上空から一見したところ、清潔できちんと計画された小さな街のように見える。スポーツ用グラウンド、整然とした道路、民間の大きなビルもそろっている。
だが、この「街」は、実は領有権争いが白熱しているスプラトリー(中国名・南沙)諸島のスービ(渚碧)礁上にある。この地域の安全保障専門家によれば、近い将来、ここが東南アジア海域の中心に駐留する初の中国軍部隊の拠点になる可能性があるという。
ロイターが閲覧した民間部門によるデータ分析では、中国沿岸から約1200キロ離れたスービ礁には、現在、個々に識別できる建造物が400棟近く存在する。中国の他の島嶼(とうしょ)よりもはるかに多い。
安全保障専門家と外交関係者によれば、スービ礁には将来的に人民解放軍の海軍陸戦隊数百名が常駐する可能性があるだけでなく、中国が文民の存在によって領有権の主張を強化しようとしているため、行政拠点が置かれる可能性もあるという。
画像調査によって独立系メディアを支援する非営利団体アースライズ・メディアのデータは、2014年初頭に中国がスービ礁の浚渫(しゅんせつ)を開始した時期にさかのぼり、「デジタルグローブ」衛星によって撮影された高解像度画像の調査に基づいたものである。
画像には、整然と並んだバスケットボール・コート、練兵場、多種多様な建造物が映っており、建造物の一部の脇にはレーダー装置が見える。
アースライズの創設者ダン・ハマー氏によれば、彼のチームが建造物としてカウントしたのは、自立した、恒久的で識別可能な構造物だけだという。
シンガポールで活動する安全保障専門家のコリン・コー氏は、データと画像を見た後で、「信じがたいことに、バスケットボール・コートのすぐ下に、中国本土で標準的とされる人民解放軍の基地が見える」と語った。
「だが、何らかの部隊を派遣することが大きな一歩になる。その後は、その部隊の安全を守り、維持していく必要がある。つまり、軍事的なプレゼンスは現状に比べて大きくなっていく一方だろう」
西側の上級外交官は、いずれ中国が部隊またはジェット戦闘機を人工島に配備するようなことがあれば、いよいよ重要な通商路である同海域の支配をもくろむ中国の決意をくじくための国際的な取り組みが問われることになる、と語る。
スービ礁は、中国がスプラトリー諸島に設けている7つの人工拠点のうち最大のものである。いわゆる「ビッグスリー」、すなわちスービ、ミスチーフ(美済)、ファイアリークロス(永暑)の3環礁には類似のインフラが整備されている。ミサイル発射台、長さ3キロメートルクラスの滑走路、広大な格納庫、人工衛星や外国の軍事活動・通信を追跡できるさまざまな設備などだ。
アースライズの分析によれば、ミスチーフ礁とファイアリークロス礁には、それぞれ約190の独立した建造物・構造物が存在する。以前は公表されていなかったデータは、ベトナム、マレーシア、台湾、フィリピンが占有しているものも含め、南シナ海の60以上の島嶼・岩礁における建造物数を詳述している。
このデータは、ベトナムが占有するスプラトリー島、フィリピンが占有するティトゥ(タガログ語名・パグアサ)島、台湾が占有するイトゥアバ(台湾名・太平)島など、一部の島嶼ではインフラがかなり整備されていることを示しているが、中国政府による規模と整備水準はライバルを圧倒している。
スービ礁上の建造物の数は、中国政府が実効支配するパラセル(西沙)諸島のウッディー(永興)島の規模に匹敵する。パラセル諸島はスプラトリー諸島よりもはるかに中国に近いが、ベトナムもその領有権を主張している。
ウッディー島は基地・監視哨であり、他国の駐在武官によれば、南シナ海全域にわたる師団本部として、人民解放軍の南部戦域司令部に直属しているという。
コー氏や他の専門家によれば、スービ、ミスチーフ、ファイアリークロス3礁それぞれの施設に、1500─2400人規模の連隊が駐屯可能だという。
中国の正確な意図は依然として不明であり、複数の専門家は、いわゆる「航行の自由」作戦による哨戒など米国の活動を中心に、東南アジア地域における安全保障の動向を中国政府が脅威に感じるかどうかによって大きく左右されるだろうと話している。
ロイターはスービ礁上の構築物や想定される用途について中国国防省に問い合わせたが、回答は得られなかった。
中国政府は一貫して、領有権を主張している島嶼上の施設は民生用および必要最低限の自衛目的のものだと主張している。中国は、米国が「航行の自由」作戦によって同地域を軍事問題化していると批判する。
政府の支援を受ける中国南海研究院のディン・デュオ研究員は、民生用インフラを保護するため、スプラトリー諸島における軍事的プレゼンスを中国政府は必要としている、と言う。
「どの程度大きなプレゼンスになるかは、南沙諸島に関して中国が今後行う脅威評価次第である」と、同氏は中国語での呼称を用いて述べた。
「特にトランプ氏が大統領に就任して『航行の自由』作戦が強化されて以来、南沙地域は厳しい軍事的圧力にさらされている。したがって中国は脅威評価を引き上げてきた」
<迫る試練>
ホワイトハウスは今月、中国が進める南シナ海での軍備拡張について警戒を強めていると発表。これに先立ってCNBCは、スービ、ミスチーフ、ファイアリークロス各礁に、対艦巡航ミサイル、地対空ミサイルのシステムが配備されたと報じていた。
中国は18日、「南シナ海を巡る戦い」への準備として、島嶼・環礁の一部において、爆撃機の離着陸訓練を実施したことを明らかにした。
一部の米国人専門家は、人民解放軍の写真からは、爆撃機がパラセル諸島のウッディー島に着陸しているように見えると指摘しているが、人民解放軍側は、スプラトリー諸島の拠点に航空機が実際に着陸したことをまだ証明していない。
米国防総省は23日、中国政府が南シナ海で島嶼の軍事化を続けていることを理由に、大規模海上軍事演習への中国の参加を求める招待を撤回した。
次期米太平洋軍司令官に指名されているフィリップ・デービッドソン海軍大将は先月、スプラトリー諸島における中国の基地はすでに完成しており、部隊がまだ派遣されていないだけだと述べた。
デービッドソン大将は米議会の委員会において、「これらの島嶼にどのような部隊が派遣されようとも、領有権を主張する他の国々の軍事力を簡単に上回ってしまうだろう」と述べた。
これまでのところ、中国が建設した人工島の近海を米軍艦艇が航行を繰り返し、またこの水域への各国海軍の展開も増えているにもかかわらず、中国政府の計画に対する明確な影響はほとんど見られない。
「西側諸国の間では、新たな戦略が必要だという切迫感がある」と複数国間での協議に詳しい西側の上級外交官は言う。「たとえ一時的にせよ[中国側の]ジェット戦闘機が配備されれば、足並みのそろった対応が欠落していることが厳しく問われることになろう」
すでに中国の大型強襲揚陸艦その他の艦艇が、ファイアリークロス、スービ、ミスチーフ礁の本格的な海軍用埠頭を利用している。領有権紛争が白熱する水域全体にわたり、他国の海軍将校らの言う「事実上の恒久的なプレゼンス」があることを示している。
中国軍は、彼らが実効支配する島嶼を利用して、中国海軍将校らが他国海軍に対して「軍事警戒圏」と宣言する水域の監視活動を行っている。だがこの「軍事警戒圏」という言葉は曖昧であり、アジア・西側諸国の軍当局者は、国際法においては何ら根拠がないとしている。
最近の西側情報機関による報告について説明を受けた関係者によれば、外国軍の艦艇および航空機に対して、中国海軍艦艇およびファイアリークロス礁上の監視哨から所属を問う警告無線が入るパターンが激化しているという。
オーストラリア当局者は最近、ベトナムに向かう途上で南シナ海を航行する同国海軍艦艇3隻に対して、中国側から「強硬だが礼儀正しい」警告があったと発表した。
情報筋によれば、中国軍と外国軍の間のこのようなやり取りは、一般に知られているよりもはるかに頻繁に生じているという。
西側諸国による最近の安全保障報告に詳しい人物がロイターに語ったところでは、「南シナ海のかなりの範囲において、そうしたやり取りは例外ではなく常態となっている」という。
域内の軍関係者や専門家によれば、インド、フランス、日本、ニュージーランド、そして領有権争いの当事国であるベトナム、マレーシア、フィリピンの艦艇・航空機も、やはり同じような警告を受けている。
中国側が主張する「軍事警戒圏」には国際法上、軍事慣例上の根拠が何もないため、自艦が航行しているのは公海であり、そのままの針路を維持すると他国の海軍将官らは常々強調している。
中国の安全保障専門家である香港・嶺南大学の張泊匯教授は、中国政府は、戦闘機の常駐などの攻撃的な動きには慎重になる可能性が高いとみる。
「今や島が完成した以上、中国政府の次の動きには、ある程度の慎重さが出てくると考えられる」と同氏は指摘。「本土から非常に離れた場所で、あれだけのプレゼンスを維持することは大変な事業だし、部隊やジェット戦闘機の配備は、近隣諸国にとっては、まさに一線を越えた行為となる」
米軍当局者は、かつては近隣諸国が優位に立っていた地域に中国が軍事力を投射するうえで、南シナ海の基地はすでに貢献していると警告し、偶然に委ねるわけにはいかないと主張する。
デービッドソン大将は先月の議会証言の中で、「要するに、ほとんど対米戦争に近いシナリオのもとで、中国は今や南シナ海を支配する能力を持ちつつある」と語った。
(翻訳:エァクレーレン)