焦点:中国当局向け監視機器、地元企業が激しい開発競争

[北京 30日 ロイター] – この機械を使えば、あなたのスマートフォンのパスワードをものの数秒で破ることができる。通話やメッセージアプリから個人情報を読み取り、あなたの連絡先リストを調べることも可能だ──。

中国製スキャナー「XDH-CF-5600」は、北京での国際警察装備品展示会に展示されていた数百もの監視機器の1つだ。機能を説明してくれたセールス担当者は、この機器を「携帯電話捜査官」と呼んだ。

同展示会は、中国の警察当局が、最新の監視機器をワンストップでそろえることができる場だ。こうした先端機器は、「黒科技(ブラック・テクノロジ―)」と広く呼ばれている。

中国治安当局が、いかにテクノロジーを駆使して共産党支配に反抗的な行動を監視し、取り締まっているかをこの展示会は物語っている。

オンライン、オフライン両面でのこの種の監視活動について、人権擁護団体は、言論を封じ込める国家的監視システムの発展につながると懸念を表明している。展示会を主催した中国公安部は、コメントの要請に応じなかった。

この展示会では、犯罪者を見分ける人工知能(AI)を搭載した可愛い外見のロボットのほか、たくさんのドローン、スマート眼鏡、DNAデータベースのソフトや、顔認識カメラなどが陳列されていた。

毎年開催される同展示会では、バイヤーのほとんどが中国の地方警察関係者のようだった。一方で、車両や航空機を出品していたグローバル企業もいた。米自動車大手フォード・モーター<F.N>や、独自動車大手ダイムラー<DAIGn.DE>傘下のメルセデスベンツ、欧州航空機大手エアバス<AIR.PA>が、自動車やヘリコプター模型を展示していた。

各社は現段階で、コメントの求めに応じていない。西側企業が海外の警察当局に車両等を販売するのは珍しいことではない。

セキュリティ機器開発の廈門市美業柏科信息<300188.SZ>が開発したXDH-CF-5600スキャナーも含め、展示品がうたっていた機能を実際に確認することはできなかった。

XDH-CF-5600のようなスキャナーは、米国を含めた世界市場で存在する。だがその使用を巡っては、特に携帯電話機器から強制的にデータを収集することについて、議論を呼んでいる。

中国企業は、自国の治安機関からの要求に応えようと開発に力をいれており、他社の追跡監視機能を上回ろうとする監視テクノロジーの開発競争が起きている。西側企業はこれまでのところ、中国の監視ブームでは表立った役割はほとんど果たしていない。

北京を拠点とする海鑫科金は、同社が開発したデスクトップ型と携帯用の電話スキャナーによって、フェイスブックやツイッターを含めた90以上のスマホのアプリから、消去済みデータさえも回収できるとしている。

この製品の大きな強みは、人気のiPhone(アイフォーン)などに使われている米アップル<AAPL.O>の基本ソフトiOSのデータも収集できるとしている点にあると、製品を見ていた新彊ウイグル自治区の警察官は話した。

「新彊では、もうこの種類のスキャナーが導入されているが、これは他の製品よりiOSに強いとうたっているので興味を持った」と、Guと名乗るこの警察官は言った。この展示会のために3000キロを移動してきたという同氏は、フルネームは教えてくれなかった。

多くのアナリストは、iPhoneのiOSはもっとも安全だと考えている。侵入に成功したのは、イスラエルと米国の数社しかないと報じられている。だがその性能は、秘密のベールに包まれている。

「iOSに侵入する方法は、以前から存在している」と、メルボルンにあるディーキン大学サイバーセキュリティ研究センターのマシュー・ウォーレン副所長は言う。「だがこれが他と違うのは、中国当局が、その能力を持っていることを認めている点だ」

北京の展示会では、数社がロイターに対し、iOS6からiOS8.1までのOS上で、4ケタのパスワードを破ることができると語った。最新のiOS10のセキュリティについては、研究中だという。

これらの出品者は、旧型アイフォーンのセキュリティに侵入できるという主張の実演は行わなかった。アイフォーンの最新OSでは、より安全性の高い6ケタのパスワードが導入されている。

アップルは、出品者の主張に対してコメントしなかった。

<監視ラボ>

中国当局は、海鑫科金のような企業が開発した機器を利用して集めたスマホやカメラ上の情報を14億人近い人口のオンラインデータベースに集約し、全国規模の監視ネットワーク構築を目指している。。

「われわれの犯罪科学製品は、中国の26省で販売され、警察による1100万件の情報処理に貢献している」と、同社のHan Xuesong氏は、展示会でロイター記者に語った。

海鑫科金だけではない。美業柏科にも「DC-8811 Magic Cube」という競合製品がある。同社の販促資料では、これを「犯罪科学のスイス・アーミーナイフ」と表現。さらに大型の「FL-2000」については、「犯罪科学の空母」と呼んでいる。

セキュリティーソフト会社の奇虎360が支援する犇衆信息も展示会にスキャナーを出品し、海外のプラットフォームから情報を収集する機能について宣伝していた。

セールス担当者は、同社が昨年、「政府転覆を企む」容疑者の電話に侵入し、同容疑者のフェースブックやツイッターのアカウントから情報を得たと話した。この担当者は、名前の公表に同意しなかった。

フェースブックは、コメントの求めに応じなかった。

ツイッターの広報担当者は、見たことがない技術にはコメントできないとしつつも「プライバシーはツイッターの根幹部分であり、世界各地でその啓発に積極的につとめている」と話した。

<青い目のロボット>

他の出品者は、人々の顔をスキャンして逃亡者や容疑者のデータベースと照合できる警察用眼鏡、駅や空港用の青い目をした警察ロボット「AI-2000-Xiao An」なども展示していた。

映画スターウォーズに出てくるロボット「R2─D2」のような形をした同ロボットには、赤い光を点滅させる「耳」のほか、センサーやカメラ12個以上が搭載されている。人ごみの中で誰かを見分けたり、会話を交わしたり、警察による案内を放送したりできるという。

国営メディアによると、このロボットは、昨年廈門市で開かれた国際会議においてセキュリティのため使用されたという。

美業柏科の研究開発マネージャーZhao Jianqiang氏は、同社製品は、オンラインやスマホ上の「テロ関連や暴力的内容」を検出するために、AIを活用していると語る。例として、銃の画像や、イスラム教国の国旗によくみられる三日月と星のシンボルを同氏は挙げた。

同社では、音声ファイルを分析したり、ボイスメッセージをテキスト化したり、トルコ系言語を話すウイグル族のような少数派の言語を北京語に変換するソフトウェアも出している。

中国当局はこの2年、新彊ウイグル自治区でウイグル族や他のイスラム教少数派民族をテクノロジーを用いて追跡しており、彼らに対する治安・監視活動を強化している、と住民や人権活動家は語る。中国政府は、同地方での弾圧行動を否定している。

中国でこのような高度な監視テクノロジーが台頭したことにより、中国国民のプライバシーがほとんど失われてしまうとの懸念が人権活動家などの間で高まっている。

だが、公の場でこうした懸念が議論されることはほとんどなく、多くの市民は、個人の権利が国家の利益の下におかれている現状に甘んじている。

美業柏科の子会社XindehuiのLiu Haifeng氏は、監視技術は良いものだと考えていると言う。

「人々、特に若い人がテクノロジーなしで生活するのは不可能だ」と、Liu氏は北京で開かれたイベントで警察官の聴衆に語りかけた。したがって、容疑者が逃げようとしても「絶対に逃げ切れない」と述べた。

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

 
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