米朝首脳、初会談で「非核化」に合意 見通し不透明との声も

[シンガポール 12日 ロイター] – 米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は12日、朝鮮半島の「完全な非核化」を目指すことで合意、米政府は北朝鮮に安全保障を提供することを確約した。

シンガポールで行われた史上初となる米朝首脳会議後に発表された共同声明では、「トランプ大統領は、北朝鮮への安全保障の提供を決意した。金正恩委員長は、朝鮮半島の完全な非核化への揺るぎない固い決意を再確認した」としている。

両国は今後も協議を継続するとしているが、具体的にどのように非核化を実現するのか、声明では詳細には触れていない。北朝鮮に対する制裁への言及や平和協定締結への言及もなかった。

トランプ大統領は「極めて迅速に」非核化のプロセスが始まるとの見方を示した。声明によると、ポンペオ米国務長官と北朝鮮当局者が「できる限り早期に」追加の交渉を行う予定。

トランプ大統領は会見で、非核化の過程は検証されると表明。検証作業には「北朝鮮で多くの人々が関わる」と述べた。大統領によると、金委員長は、北朝鮮がミサイル用の大規模なエンジン試験場を破壊していることも明らかにした。ただ、大統領は当面、北朝鮮に対する国際的な制裁が維持されるとの見通しを示した。

政治アナリストは、今回の米朝首脳会談について、象徴的な意味合いしかなく、具体的な成果はなかったと指摘している。

米シンクタンク「民主主義防衛財団」のシニアフェロー、アンソニー・ルジェロ氏は「さらなる交渉が、非核化という最終目標につながるかは不透明だ」と指摘した。

米朝の非核化の定義には大きな隔たりがある、と語るのはRBCキャピタル・マーケッツ(香港)のアジア為替戦略担当ヘッド、Sue Trinh氏。「米国にとっては、完全で検証可能かつ不可逆的な非核化を意味する。金委員長にとっては、経済支援やアジアでの米国のプレゼンス低下と引き換えに核・ミサイル実験を停止することを意味する。金委員長は、既存の核兵器を廃棄する意思を全く示していない」

<日本人拉致問題に言及も>

トランプ大統領は記者会見で、北朝鮮の非核化を巡る交渉を促進するため、「非常に挑発的」で多額の費用がかかる米韓軍事演習を中止する意向を表明。「軍事演習は非常に高額だ。その大半をわれわれが負担している」と指摘した上で、「交渉中という状況の下で、軍事演習を行うのは不適切だと思う」と述べた。

また、日本人拉致問題については、北朝鮮が対応する方針を示唆したと語った。

今回の会談を受け、安倍晋三首相は同日、トランプ大統領のリーダーシップに敬意を表し、拉致問題を提起したことに「高く評価する」と感謝の意を表明。拉致問題の解決に向け日朝2国間の交渉に改めて強い意思を示した。

<握手で友好ムード演出>

今回初めて顔合わせした米朝首脳は、会談の冒頭に握手を交わし、笑顔を見せて終始友好的なムードを演出。

トランプ大統領が「素晴らしい関係を築く」と述べたのに対し、金委員長は「ここまで来るのは容易ではなかった。過去が足かせとなっていたが、われわれは全てを克服しここに来ることができた」と応じた。

また、金委員長は通訳を介してトランプ大統領に対し「世界中がこの瞬間を見ていると思う。多くの人はファンタジーやSF映画のシーンのように思うだろう」と語った。

両首脳は通訳だけを交えて40分ほどにわたって1対1の会談を行った。その後、他の高官らも同席する拡大会合に入った。拡大会合には、米国側からはポンペオ国務長官、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)、ケリー大統領首席補佐官が出席。北朝鮮からの出席者には、金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長、李容浩・外相、李洙ヨン党副委員長が含まれた。

両首脳が会談するのはこれが初めてであり、それぞれの名を歴史に刻む機会となった。

今回の会談で、実際に北朝鮮の核放棄につながる合意を結べれば、トランプ大統領にとって、歴代の米大統領が誰も成し遂げられなかった成功をつかむことになる。

一方、トランプ大統領の年齢の半分程度で、北朝鮮を支配する金一族3代目の指導者である金委員長は、米朝首脳会談により、父親と祖父が夢見ることしかできなかった国際的な正当性を手に入れる。北朝鮮は2006年に初めて核実験を実施。それから長年にわたり、自国のミサイル・核プログラムを巡り経済制裁に直面している。

<非難の応酬から変化>

北朝鮮が米国本土に到達可能な核ミサイルの開発を急ぎ、同国のミサイル・核プログラムを巡りアジアに緊張が高まった昨年には、米朝首脳会談の開催など考えられないことだった。

トランプ大統領はそのようなミサイルの完成を阻止すると宣言。北朝鮮に対し、「世界が見たこともないような炎と激しい怒り」に直面することになると脅した。大統領は、金委員長について、自爆任務を遂行する「小さなロケットマン」と揶揄(やゆ)した。

一方、金委員長もトランプ大統領について、「気が狂っている米国の老いぼれ」だと非難していた。

だが、北朝鮮が昨年9月、水素爆弾の地下実験を実施した後、トランプ大統領は金委員長についてもっと真剣に考えるようになった。トランプ大統領と政権幹部らはこの数週間、金氏のことを「委員長」と呼んでいる。

米ホワイトハウスによれば、トランプ大統領は12日夜にシンガポールを出国する見通し。関係筋によると、金委員長も同日にシンガポールを離れる。

 

 
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