[東京 15日 ロイター] – 塚田真一郎社長が都内で経営する建設会社にとって、従業員である22人の中国人とベトナム人は不可欠な存在だ。彼らは株式会社塚田工業の従業員のほぼ半数を占める。
「宝です。本当に宝ですね」──。社長にとって外国人労働者は、どんな存在かとの質問に塚田氏はこう答えた。
人手不足については「少子高齢化ですよね、結局。技能工がいなくなっている」「設計図は出来るんですが、そこから先が進まない」と建設業界の現状を嘆く。
日本中の農家、ホテル・旅館、建設現場で、人手不足が深刻化している。2020年の東京五輪を控え、労働力への需要は増えるばかりだ。
これまで日本政府は、ほんのわずかしか単純労働に従事する外国人を受け入れていなかった。だが、その態勢の見直しを迫られている。
ただ、日本では「移民」に対する非常にデリケートな問題が存在するため、政府の取り組みは極めて慎重だ。
国民の意識は少しずつ変わってきているものの、依然として外国人労働者が大量に流入すれば、社会秩序を乱し、雇用環境を悪化させ、伝統を失わせるとの懸念が広くある。
IT関連企業に勤める児島弘樹氏(28)は「外国人労働者が、貴重な人材になっているのは実感する。今後も必要性が高いのではないかと思う」としながら「移民という言葉自体、今の日本の良さが侵食されてしまうのではないかというのもあるし、やっぱり(不安なのは)治安ですかね」と語った。
政府は2018年の「経済財政運営の基本方針(骨太の方針)」に、外国人が就労可能な新たな在留資格の創設を盛り込んだ。労働力不足が深刻な分野で最長5年の就労を認める。政府関係者によると、農業、建設、ホテル・旅館、介護、造船の5分野に焦点を当てるという。
さらに一定の技能と語学を身につけ、試験に合格した人には、在留期間の上限を付さないことや、家族の帯同を認めることも検討するという。
政府は秋の臨時国会にも新制度に対応する法改正案を提出したい考え。この制度について「移民政策ではない」と説明しているが、より「開かれた日本」への1つのステップであることは間違いない。
移民問題に詳しい日本国際交流センター・執行理事、毛受敏浩氏は「日本は、移民政策について考えないと将来が危うい、という段階に来ている」と警鐘を鳴らす。
<外国人労働者、10年で約2.5倍>
日本で働く外国人の数は、増加し続けている。政府の調査によると、2017年10月末現在で約128万人と、国内の総人口の約1%に達し、2008年の48万6000人から2倍以上に増えている。
このうち最も増加率が大きいのは、留学生と技能実習生だ。留学生は週に28時間の範囲内で就労することができる。技能実習は最長5年間の実習プログラムで、終了後は技術を習得して帰国する仕組みだ。
ただ、実習生の多くは、このプログラムを、母国で働くよりも高い賃金を稼げる手段とみている。一方、受け入れる日本企業側は、日本人がいやがるような仕事の働き手として彼らを捉えている。
新たな在留資格は、人手不足に直面する分野に新たな労働力を供給すると期待されている。人手不足によって最も打撃を受ける中小企業の比率が相対的に高い日本商工会議所は、この動きを歓迎するとしている。
最近の世論調査では、外国人の受け入れに対し、国民が徐々に肯定的になっていることがわかる。2017年にNHKが行った意識調査では、51%が外国人に対する制限を維持するべきだと答えた。1992年の調査では56%だった。
ただ、懸念を持つ人も多い。40代のある女性はロイターの取材に「壁にスプレーでいたずら描きをするなど、街が汚くなるイメージがある。高度なスキルを持った外国人なら日本経済にプラスになるので賛成だが、ブルーカラーの外国人労働者受け入れは心配」と話した。
昨年出版された「未来の年表」は、人口減少に対する人々の不安を反映してベストセラーになった。著者の産経新聞記者、河合雅司氏は、人口減少に伴い、よりコンパクトで効率的な国に日本はなるべきであり、移民に関する規制を緩和すべきではないと主張する。
同氏は「大規模な移民の受け入れは欧州諸国で混乱をもたらし、テロや暴力、移民排斥運動などを生んだ」とし「無節操な外国人受け入れは、日本社会にも分断をもたらす」と警告している。
<定着化へのハードル>
急速な高齢化に見舞われている地方では、農業は外国人なしでは成り立たなくなっている。
群馬県で白菜やほうれん草を栽培する農業法人「グリンリーフ」を営む澤浦彰治氏は、地元の住民だけでは、全く人手を確保できないと話す。
グリンリーフでは、漬け物とこんにゃくを作る工場などで24人のタイ人とベトナム人が働く。
澤浦氏は技能実習制度ではなく、こうした仕事に外国人が就労できるような制度が必要だと考えている。新たな制度なら、実習生を斡旋するブローカーに支払う手数料もいらなくなると指摘する。
ただ、澤浦氏は、単純労働者を無期限に家族と一緒に受け入れるという考えには賛成できないという。それは、治安の問題からではない。
日本経済が低迷した時に、単純労働者は家族を養えなくなる可能性が、高度人材より高いからだと澤浦氏は指摘した。
1990年代から2000年代初めごろ、ブラジルの日系人に就労許可を与える制度を通じて、多くのブラジル人が日本に働きに来た。しかし、2008年のリーマンショック後の不況で彼らの多くは解雇され、大半が帰国することとなった。
こうした歴史を踏まえ、澤浦氏は「外国人が日本に来て定住化、永住化といった時に、ちゃんと食べていける技術、技能がある人でないと定着化はすべきでないと考えている」と話した。
塚田工業で6年間、左官の仕事をしている中国人、Wang Jinbao氏(48)は、日本で家族と暮らしたいと願っている。
同氏は、日本語を学んだことが社会に溶け込むのに役立ったという。日本の安全で清潔なところが好きで、友人もできた。
中国にいた時の2倍近くの収入がある。中国に戻るより日本で働きたいか、との問いに「日本で仕事をしたい」──。彼はそう言った。
(竹中清、Malcolm Foster 翻訳:宮崎亜巳 編集:田巻一彦)