[東京 28日 ロイター] – 公正取引委員会が28日、大手携帯電話会社の販売手法について2回目の警告に踏み切った背景には、国内市場で消費者保護が徹底されておらず、競争促進の妨げになっているとの懸念がある。
各社は指摘を受ける度に是正措置を導入しているが、そうした対策も規制当局の目には新たな顧客囲い込み策に映る。「いたちごっこ」の様相を呈している当局と企業のせめぎ合いに、まだ決着の糸口は見えていない。
< 「スイッチングコスト」にメス>
「公取委とは問題意識は同じだ」──。総務省幹部はこう話し、公取委と連携しながら国内携帯電話市場の競争促進を後押しする姿勢を鮮明にさせた。
今回、公取委が問題視したのは「スイッチングコスト」の高まりだ。スイッチングコストとは他社への乗り換えにかかる費用のことで、金銭的な負担だけでなく、時間や心理面の負担なども含まれる。いわば「乗り換え障壁」と言える。
公取委はスイッチングコストを高めている施策として、1)端末代金の大部分を毎月の通信費から割り引く通信と端末のセット販売、2)期間拘束・自動更新付契約(2年縛り)、3)将来的な端末の下取りや同じプログラムへの加入等を前提としたプログラム(4年縛り)──などを挙げており、「それぞれ単体の行為でも独占禁止法上問題となり得るが、このような行為が組み合わされる場合には、競争者排除効果が累積的に増幅され、独禁法上問題となるおそれが一層高まる」と強く是正を求めている。
スイッチングコストが高まると、他社に乗り換える利用者が少なくなり、結果として競争が停滞する。規制当局は競争を促進する上で格安スマートフォンサービスを提供するMVNO(仮想移動体通信事業者)が重要な役割を果たすとみているが、公取委は「大手携帯電話会社がスイッチングコストを高める様々な施策を講じている」として、これがMVNOの参入を妨げている可能性があるとの見方を示している。
一方、4年縛りは最新機種を実質半額で購入できる仕組みであり、利用者にとっては端末を安く買えるというメリットもある。携帯電話会社が顧客にメリットがあるサービスを提供することは当たり前のことであり、大手3社はその結果として顧客が他社に乗り換えないのは、むしろ良いサービスを提供している証でもあるとの立場だ。ただ、規制当局にはそうは映っていないことが「いたちごっこ」の背景にある。
総務省幹部は「顧客にとってメリットのあるサービスを提供することにはもちとん反対しないが、現状は消費者保護とは言いがたい様々な流出防止のしかけがあり、その負の側面のほうが大きい」と指摘する。
<対応強める規制当局>
公取委は「スイッチングコストを高めることにより、利用者を不当に囲い込む行為に対しては独禁法を厳正に執行していく」と強い態度を表明している。「以前(2年前)よりもトーンを強めている部分もある。事業者がどういう対応をするかをみながら、必要があれば対応をとる」(公取委幹部)と強気の構えを見せている。
総務省は昨年12月から「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」を開催し、今年4月に報告書をまとめた。6月にはそれに基づきNTTドコモ<9437.T>、KDDI(au)<9433.T>、ソフトバンクの3社に行政指導を行った。
総務省幹部は「今年度は打ち出したものをきちんと実施していく。MVNO市場を再活性化させ、多くの人が格安スマホに移れるように環境を整える。大手のプランについても選択肢を増やして、消費者が合理的に選べるようにする」と話す。
今回、公取委は大手3社がMVNOに回線を貸し出す際に受け取る「接続料」についても、引き下げる方向で検討する必要があるとの認識を示した。公取委からボールを投げられた総務省幹部は「接続料はもっと下げていくし、下げるために必要だったら計算式も変えるつもりだ」と足並みをそろえた。
総務省は4月、楽天<4755.T>に対して、第4世代(4G)携帯電話の地局開設に関する認定書を交付した。これにより、イー・モバイル(現ソフトバンク)以来約13年ぶりに国内4社目となる携帯電話事業者が誕生する。
「楽天には期待している。(国内携帯電話市場に競争を持ち込んだ)昔のソフトバンクのようなことをやってほしい」(総務省幹部)──。ただ、公取委が行った調査では、調査対象の大手携帯電話会社の契約者の約半数が通信品質や通信料金にかかわらず、乗り換えるつもりはないと回答している。スイッチングコストを下げたら本当に乗り換えが進むのか、不透明感も漂う。
(志田義寧)