焦点:頓挫する「中国版マンハッタン」、債務抑制が天津を直撃

天津中国) 15日 ロイター] – 中国北部の港湾都市・天津の経済に、ほころびが生じつつある。同都市の景観をここ数年大きく変貌させてきた借金頼みの投資を、地元政府が抑えこもうと悪戦苦闘しているからだ。

一部の国営企業は債務不履行に陥るか、債務返済のための資金繰りに追われており、金融機関の中には地元企業に対する融資を拒否するところも出てきているという。ロイターによる金融機関や政府関係者への取材や閲覧文書で明らかになった。

かつて「中国版マンハッタン」ともてはやされ、今では少し控えめに「中国版カナリーワーフ」などと呼ばれる天津市の新たなビジネス街では、多くの高層ビルが未完成、あるいは空室だらけのまま、とり残されている。

経済規模がベトナムのそれに匹敵する天津市だが、悩みの種は、「中国経済を債務依存の成長モデルから脱却させる」という習近平国家主席が掲げた公約のテストケースとして注目を集めてしまうことだ。

海に面した天津市は北京の玄関口であり、高速鉄道でわずか30分の距離にある。

環境汚染や地方政府が抱える公的債務、影の金融(シャドーファイナンス)を抑制する動きによる直撃を受け、中国経済には歪みが生じており、天津市にもこの問題が反映されている。中国は14日、5月の投資成長率が22年以上ぶりの低水準になったと発表した。

中国政府が、信託などを中心とするシャドーファイナンスの経路を封じることで、ハイリスク融資の引き締めと不良債権の抑制に取り組む中で、特に深刻な影響を受けているのが天津の国営企業である。

不動産投機の抑制で不動産市場が沈静化する中、天津市の財政が悪化していることが、国営企業の苦境に拍車をかけていると、政府関係者は語る。

ある主要国営銀行では天津支店が天津市への新規融資を行うことを禁じたと、事情をよく知る関係者は語った。だが、銀行名は明らかにしなかった。

債務不履行リスクの悪化懸念から、天津の国営企業に対する融資残高を抱えているある信託会社も、同様の決定を下した、と同社の関係者は語った。

「天津に対しては新規融資を行っていない」と同関係者はロイターに語った。また、国営企業の一部は、期限通りの債務返済を「すでに諦めている」と同社が考えていることを明らかにした。

ドイツ銀行の中国担当チーフエコノミストであるZhiwei Zhang氏は、天津などの地方政府は、財政緊縮を求める容赦ないプレッシャーに直面してきたと言う。

「プレッシャーは高まり続けていたので、今年にはこういう事態に至るのではないかと予想していた」とZhang氏は言う。「そのプレッシャーは今も続いている」

ここ2カ月のあいだに、CITICトラストや国通信託は、Tianjin Municipal Development Coや天津市房地産という天津にある国営企業2社の債務返済能力に対して警告を発している。同市の経済成長を加速するための地方政府による取組みの一環として進められた、債券発行を原資とする大規模プロジェクトに、どちらの信託会社も投資している。

近年の天津は、注目を集める数多くの建設プロジェクトによって大きな変貌を遂げてきた。金融・ハイテク地区や、昨年開館してネット上で話題を呼んだ未来志向の新図書館、そして中国でも指折りの高層ビルを含めた大規模開発が行われている浜海新区はその一例だ。

また天津市は、隔年開催する世界経済フォーラムの会合を、郊外の巨大なコンベンションセンターで開催している。

天津市の開発は、天津・北京・河北省の経済統合をめざす中国政府の取組みの一環として、中国の政策金融機関である国家開発銀行などによって推進されてきた。国家開発銀行は、2015年から2017年にかけて、この地域に2・1兆元(約35兆円)を投じてきた。

地方政府がプロジェクトに暗黙の保証を与えることに対して、中央政府の締め付けが厳しくなり、債務リスク低減を図る全国的な取り組みが進む中で、こうした開発プロジェクトは熱気を失ってしまった。

天津市政府にはコメントを要請したが、回答は得られていない。

<暗い展望>

債務不履行リスクがあると指摘された天津の国営企業2社は態勢を立て直しつつあるようだ。ロイターが閲覧した文書によれば、天津市房地産は5月に期限を迎えた融資を返済し、もう一方は6月に返済を行う予定とされている。両社はコメント要請に応じなかった。

だが投資家は依然として天津の成長展望について懸念している。

第1・四半期に天津が報告した経済成長率は1.9%だったが、これは省規模の地域としては最低水準に属しており、歳入は17%も落ち込んでいる。固定資産投資は25.6%の急降下となった。

天津市南部の海河の屈曲部に広がる、浜海新区内の金融街・于家堡(ユージアプ)を訪れた際にも、同市が抱える困難は明らかだった。

この地区の主軸と目されていた「ローズロック国際金融センター」は、2011年に着工されたにもかかわらず、まだ建設されていなかった。未開発の用地は現在バラ園になっている。

ハイテク地区では、国内最高峰の高層ビルになると見込まれていた「ゴールディンファイナンス117」の建設が、2年以上にわたって中断している。このビルは未完成のままで、基礎部分には背の高い雑草が生い茂っている。

「民間投資家は、市当局の新たなコンセプトと公約に魅了されたが、現実が言葉に追いつかなかった」と浜海新区の開発に関与していた不動産関係者は、中断しているプロジェクトについて匿名で語った。

商業用不動産代理店のJLLによれば、浜海新区の「グレードA」オフィスの空室率は、3月末で67%に達していると指摘する。

<歳入不振>

建設ブームの際に生じた債務利払いの大半をカバーするため、天津市は長期にわたり、土地利用権の売却で得た収入に頼っていた、と政府関係者は語る。

ムーディーズ・インベスターズ・サービスによれば、天津の国営企業が抱える負債は昨年、地方政府歳入との対比で600%以上に達しており、中国で最も大きな数値となっている。

だが昨年、不動産価格の高騰を沈静化するための緊縮措置が強化されて以来、市場は不振に陥っている。今年の第1・四半期、歳入のうち、主として土地売却で構成される項目は前年同期比10.8%減少した。証書譲渡税及び土地付加価値税による税収も31.5%低下した。

Tianjin Municipal Developmentの親会社であり、市政府が直接保有している天津都市建設集団は、5月2日に開示された財務報告書によれば、16年の黒字から一転して昨年は2600万元の赤字となった。

国営企業の天津物産集団は今年、光大トラストを通じた自己名義での5億元の社債発行による資金調達を開始した。天津の地方政府系金融機関と関係のある政府関係者によれば、天津物産はこれまで、関連会社を通じた資金調達を行うのが常だったという。

「この件は、状況がいかに悪いか、そして天津の地方政府系金融機関すべてにとって、資金調達がいかに困難かを浮き彫りにしている」とこの政府関係者は言う。

<誘惑>

先月浜海新区を訪れて現地当局者と面会した中国シンクタンクの関係者によれば、現地当局者は、豊富な用地を抱える土地抵当銀行による売却が回復の鍵になると考えている。「浜海の債務問題は深刻だが、用地売却を拡大することによって、債務の4割は『解決』できると現地当局者は話している」と同関係者は語った。

だが天津市は、同市に人材を集めるキャンペーンの一環として外部投機筋向けに一部の用地購入規制を緩和することで、土地価格抑制の効果を損なっている、と国営メディアから批判を浴びている。

一方、投資家は、市当局が債務不履行や破産処理を阻む傾向があることに苛立ちを見せている。

国営企業グループの関連企業2社に7億元近くの債務延滞料を請求している国民信託のシニアマネジャーは、「投資家は天津市の商業、法務環境に大きな懸念を抱いている」と話った。

(Yawen Chen記者、Shu Zhang記者、Elias Glenn記者、翻訳:エァクレーレン)

 
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