[秋田市 4日 ロイター] – ある初夏の朝、秋田市の中学校に隣接するグラウンド。生徒たちが登校し始めるなか、70ー80歳代の男性たちが野球の練習をしていた。この場所を練習場とする野球チームのメンバーは33人。この中学の全校生徒数27人を上回る。
「怖いですよ」──。野球チーム「白浜クラブ」の会長で元教師の大友康二氏(87)は言う。「未来図は描けません、今の状態だと。どんどん人口が減少していって」。
秋田県の人口は、2045年までに41%減少、約60万人のうち半分が65歳以上になると、国立社会保障・人口問題研究所は試算している。
日本全体では、2040年ごろに、人口における65歳以上の比率が現在の秋田県と同じになると推定される。
秋田県は2015年に、子どもに対する医療費助成対象の拡大、保育料全額助成の対象拡大、奨学金返還助成制度などの少子化対策・移住促進策を含む「あきた未来総合戦略」を策定した。
佐竹敬久秋田県知事はロイターのインタビューで「秋田は面積が広く、一定の地域の人口密度が希薄になればなるほど、逆に行政経費がかかる。そういう地域の維持は非常に難しい」と語った。
<人影少ない駅前通り>
夜になると、秋田駅前の大通りも人影はまばらになる。デパートの前の看板は「週末は、夜もゆっくりお買い物」と宣伝しているが、閉店は午後7時半だ。
2017年の秋田県の死亡者数は、人口1000人当たり15.5人。死亡率は全国で最高となっている。出生率は同5.4人で全国最低。
行政サービスの仕事に従事する三浦史佳氏は、街の様子について「変わりました。葬祭会館が増えましたね。以前はそんなになかったんですけど、昔あったビルが新しくなって、何かなと思っていると葬儀場になっている」と語る。
労働力不足は全国的な問題だが、特に秋田では介護の仕事をする人が足りず、増大する介護サービスの需要を満たすことが困難になっている。
秋田認知症介護支援センター「ふきのとう」の沼谷純理事によると、介護士がいないため、3つあった施設の1つで、昨年営業を停止せざるをえなくなった。同理事は「お客さんはいるけど、お客さんを入れられない。働く人がいないから。働き手不足、労働力不足による閉鎖、休止というのが今の介護業界では実際に起きている」と話す。
県議会議員でもある沼谷氏は、秋田など地方で起きている問題は、いずれ東京にも直接、影響していくと指摘する。「地方で子供が生まれ育ち、その子供たちが東京に行き、生産をして、消費をし、経済をつくる。それが、戦後の経済成長期から続くモデルだった。でも今地方には、子供を供給する力がなくなってきている」、「地方が成り立たなくなって来ると、東京も当然成り立たなくなる」。
<出産する病院がない>
人口3万1000人の鹿角(かずの)市では、今秋から出産をする女性は隣の市の病院まで行かなければならなくなる。市内の病院が分娩を扱うことを止めるからだ。
市民団体「鹿角の産婦人科を守る会」の安保大介代表は「出産は地域の土台。経済も含めて鹿角が衰退する一番の原因になりかねないので、その土台をなくすわけにはいかない」と危機感をつのらせる。
秋田県にある企業の3分の1は、従業員が70歳を超えても働けるようにしている。全国で最も高い比率だ。
秋田市のタクシー会社、あさひ自動車では、148人いるドライバーの過半数が65歳以上。佐藤忠総務課長(81)は「うちは定年過ぎた人を足す(合計する)だけでも半分。周りはほとんど自分と似たような歳だ。歳でも頑張って働いているという意識すらないのではないか」と話す。
若者の存在はますます希少価値になっている。秋田市にある国際教養大学に通う中村さくら氏(長崎県出身)は、イベントの資金集めのために地元の会社を訪問した際にそれを感じたという。「秋田に残るの?って、すごい頻度で聞かれることは、期待と同時に、軽いプレッシャーのようなものも感じた。若者が欲しいんだなと、すごく感じた」。
<野生のクマも出没>
人口減少により、野生のクマが人間の居住地域まで降りてくる事件も起きている。人間の姿が少なくなるなか、家の周りで収穫されずに残っている栗や柿を狙ってやって来る。今年3月末までの1年間で、クマに襲われた死傷者の数は20人と、過去最多を記録した。
北秋田市の阿仁合小学校の前に立てられた標識は、クマのイラストとともに「注意!!クマ出没」と警告している。
リンゴ農家の伊東郷美氏(66)は、昨年、近所の人がクマに襲われ怪我をした時に直接クマに遭遇した。山間の集落で唯一の猟銃保持者だった伊東氏は、9─11月に、仕掛けの檻にかかったクマ11頭を処分した。伊東氏はこの経験について「考えられない。今までは、獲ったとしても多くて(年間に)1頭か2頭だった」と話した。
秋田の人口減少を止めることは難しい。そうであれば、自治体の大胆な集約化が不可欠だ、とみずほ総合研究所の主任研究員、岡田豊氏は指摘する。同氏は「出来るだけ、1カ所、2カ所という形で集約していくということが必要になっていくのではないか。日本全体(の人口)が2060年までに3000万人とか4000万人減るわけで、どの自治体もV字回復するなんてことはちょっと考えられない」と述べた。
東京のような大都市でも問題は避けられない。岡田氏は「都心から30分─1時間通勤圏内のところは、ものすごく激しい競争が起きると思う。今まで人口が多かったから勝手に人口が増えていたが、これからは選別される。人気の都市はまだ生き残れると思う。でもそうでないところは、空き家が大量に出てきてスラム化するようなことがあってもおかしくない」と話した。
東京都の人口は、2025年に1400万人でピークをつけ、以後、徐々に減少していく。2055年までに65歳以上の人口は、2015年の23%から、3分の1に増加すると見込まれている。
(竹中清 editing by Linda Sieg and Gerry Doyle; 翻訳:宮崎亜巳 日本語記事編集:石田仁志)