焦点:北朝鮮の「非核化」費用、一体いくら必要か

[ウィーン 29日 ロイター] 北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は、6月12日にシンガポールで行われたトランプ米大統領との米朝首脳会談で、「朝鮮半島の完全非核化に向けて取り組む」ことを約束した。

これを受けて、ポンペオ米国務長官と北朝鮮当局者との協議が行われる予定となっており、トランプ大統領は最近、「完全な非核化が実現されるだろう。それはすでに始まっている」と発言している。

北朝鮮の非核化が実現すると仮定した場合、それはどのような形で実現し、どの程度のコストがかかるのだろうか。

●「非核化」とは何か

非核化の定義は明確さから程遠く、米国と北朝鮮それぞれにとって異なる意味を持つ可能性もある。

それが厳密にどのような形となるかは、交渉次第だ。主要国との核合意の下でイランに認められたように、北朝鮮は、ウラン濃縮など、民生利用が可能な一部の核活動の継続を求めることも考えられる。

一方、米政府にとって、非核化は、最低でも北朝鮮の核兵器の脅威を取り除くことを意味する。

それには、既にある核兵器を国外に搬出するか解体し、核兵器を製造するプログラムを終了させ、ウランを濃縮したり、核兵器のもう1つの重要な材料であるプルトニウムを製造する北朝鮮政府の能力を制限したり除去する必要がある。

また、北朝鮮の弾道ミサイルプログラムを制限、もしくは解体することも必要になる可能性が高い。

●判明していること、まだ把握できていないこと

さらに複雑なことに、北朝鮮の核活動や核兵器プログラム、弾道ミサイルの性能については、分かっていないことが依然として多い。これらは、世界有数の秘密主義国家で行われている、極秘中の極秘活動の1つであり、各国の諜報機関が侵入に苦戦している事項だ。

北朝鮮は2006年以降6度の核実験を実施しており、回数を重ねるごとに爆発の規模が大きくなった。また、ミサイル実験でも急速に技術を改良して射程を伸ばし、外国政府を驚かせている。

北朝鮮が昨年12月に実施した大陸間弾道ミサイル実験は、米国本土の大半を射程に収めているようだと各国政府や専門家は指摘している。ただ核弾頭が標的めがけて地球の大気圏に再突入するために必要な技術を、北朝鮮はまだ完成させていないと、多くがみている。

●北朝鮮の核施設

平壌の北にある寧辺(ヨンビョン)の核施設は、歴史的に北朝鮮の核開発の中心的存在だ。そこには、プルトニウムを抽出できる使用済み核燃料を取り出す原子炉のほか、(建設中の)実験用原子炉があり、衛星写真を分析している専門家は、完成間近だとしている。

寧辺にはまた、ウラン濃縮施設があると考えられている。ただ、専門家の多くは、寧辺以外にも、より大規模な濃縮施設が1、2カ所ある可能性が高いとしている。

北朝鮮は核兵器に必要な核分裂物質を得るために、プルトニウム再処理とウラン濃縮という2つの手段を確立している。

寧辺の核施設は衛星によって厳しく監視されており、2009年に退去させられるまでは国際原子力機関(IAEA)の査察官も監視していたが、他の場所にある国内施設についてはほとんど知られていない。

米シンクタンクの科学国際安全保障研究所(ISIS)のデービッド・オルブライト氏は以前、北朝鮮の核施設の半数程度は、寧辺や核実験が行われた実験場以外の場所にあるとする匿名の「当局筋」の発言を引用している。

●乏しい前例

これまで、国家が自主的に核兵器を放棄した例はわずかしかない。それらは特殊な状況下で実現したもので、必ずしも参考にならなない。

南アフリカは、1994年にアパルトヘイト(人種隔離政策)を撤廃する直前に核計画を放棄し、核兵器を解体した。旧ソ連圏の数カ国も、1991年にソ連が崩壊すると核兵器を手放した。その中でもっとも保有核兵器数が多かったのは、およそ5000発持っていたウクライナで、廃棄までもっとも時間がかかった。

南アフリカは、保有していた6つの核爆弾を解体し、関連書類の多くを破壊し終えるまで核兵器計画を秘密にしていた。このため、核廃棄にかかったコストは不明だ。核兵器は数カ月で解体されたという。

ウクライナには、核弾頭約1250発を備えた地上発射型の戦略兵器があったが、国防当局者によると、ミサイルを発射するサイロの解体のために米国が3億5000万ドルを負担したという。

最盛期には、ウクライナの核兵器保有数は世界3位の規模だった。

北朝鮮のそれはずっと小さいが、具体的な保有数は知られていない。複数の専門家は、30発程度と予測している。

●非核化コスト

不透明な部分が多いことから、ほとんどの専門家は、非核化コストについて「数十億ドル(数千億円)」とする以上の、詳細な予測を行うことについて消極的だ。

「北朝鮮の核施設の大部分を解体し、片付けるには、数十億ドルのコストと10年程度の期間が必要だと考えるのが妥当だろう」と、2010年に寧辺を訪れた米スタンフォード大のシーグフリード・ヘッカー教授は言う。これにはミサイル施設は含まれない。

米議会予算局(CBO)は2008年、寧辺の原子炉と、周辺にある燃料棒製造用と使用済み燃料からプルトニウムを抽出するための2施設を解体し、北朝鮮から使用済み燃料を搬出して再処理するためのコストを5億7500万ドル(約636億円)と試算している。また、それには4年程度かかるとしている。

北朝鮮の核活動と保有核物質は2008年以降、急激に増加している。今では、寧辺近くに第2の原子炉が完成間近となっている。またCBOの試算は、ウラン濃縮や兵器関連施設、ミサイル技術やウラン鉱山などは含まれない。

●検証費用

非核化プロセスが機能するには、北朝鮮がすべての核関連施設や活動を申告したと、米政府が確信する必要がある。検証が重要な役割を果たすことになりそうだ。

北朝鮮が全てを申告していないのではないかとの疑いがわずかでも残れば、2003年に米国主導のイラク侵攻に発展した、イラクが大量破壊兵器を保有しているかどうかを巡る議論に似た論争が起きる可能性がある。透明性と図々しく立ち入る姿勢のバランスが必要となる。

ロイターが入手したIAEAの機密報告書によると、2015年のイラン核合意の実施状況を監視するためのIAEAのイラン活動費用は昨年、1580万ユーロ(約20億円)だった。

だがIAEAは核合意成立前から、イランの申告済み核施設を査察していた。北朝鮮で、実質ゼロの状態から査察を始めるには、より多くのコストがかかるだろう。

「IAEAのイランに対する監視・検証活動の年間費用をだいたい3倍か、それ以上にすれば、非核化合意後の北朝鮮で予想される年間コストが大体分かるのではないか」と、国際戦略研究所(IISS)のマーク・フィッツパトリック氏は言う。

「北朝鮮の核プログラムは、イランより秘密の部分が多く、核兵器について言えば、より進んでいる」

ン 29日 ロイター] – 北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は、6月12日にシンガポールで行われたトランプ米大統領との米朝首脳会談で、「朝鮮半島の完全非核化に向けて取り組む」ことを約束した。

これを受けて、ポンペオ米国務長官と北朝鮮当局者との協議が行われる予定となっており、トランプ大統領は最近、「完全な非核化が実現されるだろう。それはすでに始まっている」と発言している。

北朝鮮の非核化が実現すると仮定した場合、それはどのような形で実現し、どの程度のコストがかかるのだろうか。

●「非核化」とは何か

非核化の定義は明確さから程遠く、米国と北朝鮮それぞれにとって異なる意味を持つ可能性もある。

それが厳密にどのような形となるかは、交渉次第だ。主要国との核合意の下でイランに認められたように、北朝鮮は、ウラン濃縮など、民生利用が可能な一部の核活動の継続を求めることも考えられる。

一方、米政府にとって、非核化は、最低でも北朝鮮の核兵器の脅威を取り除くことを意味する。

それには、既にある核兵器を国外に搬出するか解体し、核兵器を製造するプログラムを終了させ、ウランを濃縮したり、核兵器のもう1つの重要な材料であるプルトニウムを製造する北朝鮮政府の能力を制限したり除去する必要がある。

また、北朝鮮の弾道ミサイルプログラムを制限、もしくは解体することも必要になる可能性が高い。

●判明していること、まだ把握できていないこと

さらに複雑なことに、北朝鮮の核活動や核兵器プログラム、弾道ミサイルの性能については、分かっていないことが依然として多い。これらは、世界有数の秘密主義国家で行われている、極秘中の極秘活動の1つであり、各国の諜報機関が侵入に苦戦している事項だ。

北朝鮮は2006年以降6度の核実験を実施しており、回数を重ねるごとに爆発の規模が大きくなった。また、ミサイル実験でも急速に技術を改良して射程を伸ばし、外国政府を驚かせている。

北朝鮮が昨年12月に実施した大陸間弾道ミサイル実験は、米国本土の大半を射程に収めているようだと各国政府や専門家は指摘している。ただ核弾頭が標的めがけて地球の大気圏に再突入するために必要な技術を、北朝鮮はまだ完成させていないと、多くがみている。

●北朝鮮の核施設

平壌の北にある寧辺(ヨンビョン)の核施設は、歴史的に北朝鮮の核開発の中心的存在だ。そこには、プルトニウムを抽出できる使用済み核燃料を取り出す原子炉のほか、(建設中の)実験用原子炉があり、衛星写真を分析している専門家は、完成間近だとしている。

寧辺にはまた、ウラン濃縮施設があると考えられている。ただ、専門家の多くは、寧辺以外にも、より大規模な濃縮施設が1、2カ所ある可能性が高いとしている。

北朝鮮は核兵器に必要な核分裂物質を得るために、プルトニウム再処理とウラン濃縮という2つの手段を確立している。

寧辺の核施設は衛星によって厳しく監視されており、2009年に退去させられるまでは国際原子力機関(IAEA)の査察官も監視していたが、他の場所にある国内施設についてはほとんど知られていない。

米シンクタンクの科学国際安全保障研究所(ISIS)のデービッド・オルブライト氏は以前、北朝鮮の核施設の半数程度は、寧辺や核実験が行われた実験場以外の場所にあるとする匿名の「当局筋」の発言を引用している。

●乏しい前例

これまで、国家が自主的に核兵器を放棄した例はわずかしかない。それらは特殊な状況下で実現したもので、必ずしも参考にならなない。

南アフリカは、1994年にアパルトヘイト(人種隔離政策)を撤廃する直前に核計画を放棄し、核兵器を解体した。旧ソ連圏の数カ国も、1991年にソ連が崩壊すると核兵器を手放した。その中でもっとも保有核兵器数が多かったのは、およそ5000発持っていたウクライナで、廃棄までもっとも時間がかかった。

南アフリカは、保有していた6つの核爆弾を解体し、関連書類の多くを破壊し終えるまで核兵器計画を秘密にしていた。このため、核廃棄にかかったコストは不明だ。核兵器は数カ月で解体されたという。

ウクライナには、核弾頭約1250発を備えた地上発射型の戦略兵器があったが、国防当局者によると、ミサイルを発射するサイロの解体のために米国が3億5000万ドルを負担したという。

最盛期には、ウクライナの核兵器保有数は世界3位の規模だった。

北朝鮮のそれはずっと小さいが、具体的な保有数は知られていない。複数の専門家は、30発程度と予測している。

●非核化コスト

不透明な部分が多いことから、ほとんどの専門家は、非核化コストについて「数十億ドル(数千億円)」とする以上の、詳細な予測を行うことについて消極的だ。

「北朝鮮の核施設の大部分を解体し、片付けるには、数十億ドルのコストと10年程度の期間が必要だと考えるのが妥当だろう」と、2010年に寧辺を訪れた米スタンフォード大のシーグフリード・ヘッカー教授は言う。これにはミサイル施設は含まれない。

米議会予算局(CBO)は2008年、寧辺の原子炉と、周辺にある燃料棒製造用と使用済み燃料からプルトニウムを抽出するための2施設を解体し、北朝鮮から使用済み燃料を搬出して再処理するためのコストを5億7500万ドル(約636億円)と試算している。また、それには4年程度かかるとしている。

北朝鮮の核活動と保有核物質は2008年以降、急激に増加している。今では、寧辺近くに第2の原子炉が完成間近となっている。またCBOの試算は、ウラン濃縮や兵器関連施設、ミサイル技術やウラン鉱山などは含まれない。

●検証費用

非核化プロセスが機能するには、北朝鮮がすべての核関連施設や活動を申告したと、米政府が確信する必要がある。検証が重要な役割を果たすことになりそうだ。

北朝鮮が全てを申告していないのではないかとの疑いがわずかでも残れば、2003年に米国主導のイラク侵攻に発展した、イラクが大量破壊兵器を保有しているかどうかを巡る議論に似た論争が起きる可能性がある。透明性と図々しく立ち入る姿勢のバランスが必要となる。

ロイターが入手したIAEAの機密報告書によると、2015年のイラン核合意の実施状況を監視するためのIAEAのイラン活動費用は昨年、1580万ユーロ(約20億円)だった。

だがIAEAは核合意成立前から、イランの申告済み核施設を査察していた。北朝鮮で、実質ゼロの状態から査察を始めるには、より多くのコストがかかるだろう。

「IAEAのイランに対する監視・検証活動の年間費用をだいたい3倍か、それ以上にすれば、非核化合意後の北朝鮮で予想される年間コストが大体分かるのではないか」と、国際戦略研究所(IISS)のマーク・フィッツパトリック氏は言う。

「北朝鮮の核プログラムは、イランより秘密の部分が多く、核兵器について言えば、より進んでいる」

 
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