欧州連合（ＥＵ）の執行機関・欧州委員会は7月18日、米大手情報技術（ＩＴ）企業アルファベット(GOOGL.O)傘下のグーグルが自社の基本ソフト（ＯＳ）「アンドロイド」の支配的な地位を乱用して他のアプリを排除しようとしたとして、過去最高額となる４３億４０００万ユーロ（約５７００億円）の支払いを命じた。
これまでの制裁金の最高額は、２０１７年６月に「グーグルショッピングの検索結果が、圧倒的シェアを誇るグーグルの検索結果の上に常に表示されるのは反競争的行動である」として科された２４億２２００万ユーロ(約３０００億円)。今回は前回を上回る約2倍の制裁金を科すものとなった。
これに対し、グーグルのピチャイ最高経営責任者（ＣＥＯ）は同日、自身のブログで「アンドロイドは技術革新や消費者の幅広い選択を可能にしている」と反論したうえ、「今日の決定はビジネスモデルを否定するものだ」とし、欧州司法裁判所に異議を申し立てる考えを示した。
欧州委員会のジャン・クロード・ユンケル委員長は、２５日ホワイトハウスでトランプ大統領と会って、EUから輸出する車に新しく関税をかける措置を回避するよう申し入れることになっている。
欧州委員会の競争政策を担当するマルグレーテ・ベステアー氏はグーグルに対し、こういった反競争的な慣行を９０日以内に停止するよう命令。停止しなければ、追加で（グーグルの持株会社である）アルファベットの一日平均世界売上高の最大５％に当たる罰金を科すとしている。
ベステアー氏は、「グーグルは、アンドロイドを利用して、自社の検索エンジンの優位性を強固なものにした。これらの慣行によって競業他者は技術革新や競争の機会を失うばかりでなく、グーグルはヨーロッパの消費者も健全な競争による恩恵を得られなくなる」と説明した。
また、グーグルを分割すれば問題は解決されるかという質問に対して、それは解決策にはならないだろうとも述べた。
「グーグルが分割しても競争を促進するという目的に資するとは言えない。競争を促進するにはより多くのプレーヤーが必要だ」とベステアー氏。
グーグルが結果的にアンドロイド利用者に対して支払いを請求する行動に出るかもしれないという懸念に対して、ベステアー氏は、欧州委の決定は会社の運営方法についてまで干渉するものではないとしている。
「この命令は、ビジネスモデルに対するものではない。オペレーティングシステム（ＯＳ）を収益化する可能性は残されている。アプリストアからの収益もかなりあるはずだ」とベステアー氏。
欧州委員会は、グーグルから反論として出されたアップル社との競争について、アップルはｉＰｈｏｎｅ（アイフォーン）の価格をより高額にしているほか、利用者には他社への機種変更の際に費用負担を求めていることから、反論は当たらないとした。
世界スマートフォンシェアの８割をアンドロイド端末が占めていることから、グーグルに対する3件の独占禁止法違反の訴訟のなかでも、今回のことが最も重要なものになっている。
アンドロイド端末の主要なメーカーである、サムソン電子やソニー、レノボグループ、TCL社などはこの訴訟に関してコメントを控えている。
グーグルやフェイスブックといった、確立した市場を有する技術系最大手企業に対する法的措置はそれほど痛みを伴わないと、ポーラー・キャピタル財団の経営者であるベン・ロゴフ氏は言う。
「現実は、これらの企業が消費者に十分な利便性を提供している限り、消費者はこれらの企業を利用するでしょう。そうすれば、広告主も必然的にこれらの企業の宣伝をせざるを得ない。だって、同じくらいの投資利益率（ROI）を他社から得るのは非常に難しいですから」とロゴフ氏。
CCSインサイトのゲオフ・ブラバー氏は、EUによるグーグルへの法的措置は６年から８年遅すぎた、そして消費者がその犠牲になってきたと指摘する。
「もし、グーグルがこれまで築き上げてきたアンドロイドのビジネスモデルを変えれば、消費者に不利益をもたらすという意図しない結果になる可能性がある。消費者のアンドロイド離れやアプリの混乱の発生、それからハードウェアの費用の増大などが考えられる」とブラバー氏。
２０１３年にグーグルを訴えた圧力団体 フェア・サーチ (FairSearch)は今回の決定について、これで携帯電話市場やアプリの間の公平な競争が取り戻せるとして、歓迎している。
欧州委員会に訴えられている3件目の訴訟はグーグルのアドセンス（オンライン検索広告）に関するもの。当局によると、グーグルが自社の製品を使っている第三者がウェブサイトにグーグルの競業他社の検索広告を掲載することを拒否したとしている。
