マイク・ポンペイオ国務長官が初の東南アジア訪問を終えたのを受けて、専門家たちはアメリカのインド太平洋戦略と現在進行中の貿易戦争が中国に与えている影響を分析しています。ポンペイオ国務長官はインド太平洋地域で新しく1億3000万ドル(約130億円)の構想を表明しました。
経済アナリストのチン・パング氏は、経済協力に基づくインド太平洋戦略は、中国共産党が最も恐れていることだと言います。
「トランプ大統領が昨年11月にインド太平洋戦略を表明したとき、多くの人は深刻に受け止めませんでした。中身のない戦略だと揶揄した人たちさえいました」とチン氏は言います。
「その当時、私は心の中でこう思いました。中国の『一帯一路』構想は主にこの地域の巨大なインフラへの投資のニーズをターゲットにしています。同時に、中国共産党は、彼らの求める利益と政治的な成果を実現すると称して、いくつかの国の指導者たちを『乗っ取った』のです。ですから、もしアメリカがこれに対抗したければ巨額の投資資金とテクノロジーの輸出が不可欠になるだろうと。」
チン氏の見解は変わりました。チン氏によると、インド太平洋戦略に基づく経済協力は次のような影響を中国にもたらすだろうということです。
アメリカや他の先進国から来る資金がこの地域の国々に幅広い選択肢を提供することになるでしょう。中国の「借金地獄」はすでに多くの疑念と否定的なインパクトを与えています。ですから、代替的な資金源は非常に歓迎されるでしょう。
この地域での生産能力の向上は、中国の工場にとって大きな圧力となるでしょう。中国の世界の工場になるという「夢」は主に安い製品を不当廉売して、余った生産能力を輸出することをめざしています。中国はこれ以上東南アジアに多くの競争相手を作りたくないのです。しかし、もしアメリカや他の国々がベトナムやインド、インドネシアなどに投資をして手助けすれば、この地域の生産能力は大きく向上し、中国に大きな圧力をかけることになるでしょう。
新しく形成された「より低いレベル」の自由貿易ゾーンから中国は除かれました。アメリカとヨーロッパ、日本は、共通の利益に基づいて、関税ゼロの自由貿易ゾーンを形成することが予測されます。この自由貿易ゾーンは、トランプ大統領が撤退した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)と比べると「より低いレベル」のものです。中国は除外されているので、中国が国際的に貿易を行う力は今までよりもより限られたものとなるでしょう。
もし、アジアや主要なヨーロッパ諸国を巻き込んで、アジアインフラ投資銀行に似た新しい投資銀行の提携が行われたとすると、中国共産党のインド太平洋諸国に影響力を及ぼそうという試みは多大な影響を受けることでしょう。
もし、インドやベトナム、台湾といった重要な国々がインド太平洋構想に深く関与すれば、中国共産党のこれらの地域で勢力拡大を狙うという野望は打ち砕かれることでしょう。
輸出の減少とGDP
アメリカに拠点を置く解説者で中国の元反体制活動派のチャング・リン氏は、中国国有企業(SOE)は、輸出に非常に依存しているので、貿易戦争の打撃を強く受けていると言います。これらの企業は、銀行ローンを獲得するという点で産業独占と特権という恩恵を受けてきました。しかし、彼らの経済効率は最も低く、外部の変化に対応するのが遅いのです。ですから、中国国有企業は貿易戦争で最も苦しむことになるでしょう。
他の企業、特に不動産会社も苦しむことになるでしょう。例えば、大連万達グループはかつて中国最大の私企業でした。しかし、今では潮流の変化に伴い、グループの創設者で社長の王健林氏は中国で最も裕福な男性から中国一の債務者になってしまいました。
韓国や香港、台湾の企業はかつて中国で、西欧諸国からの高度なテクノロジーや経営技術を中国に移転することによって非常にうまくやっていました。しかし、中国共産党がこれらの企業がかつて享受していた優遇措置を廃止してからはトランプ政権の登場も相まって、速いスピードで中国から撤退しています。
太平洋セキュリティ会社の副社長で研究所の所長であるウェイ・タオ氏の試算によると、アメリカによる関税は中国の輸出を455億ドルから1575億ドル(約4兆5500億円から約15兆7500億円)減少させる可能性があるとのことです。
チーフエコノミストで中国CITIC銀行インターナショナルの中国研究部のジェネラルマネージャーのリャオ・チュエン氏は最近、もしアメリカが25%の関税を5000億ドル(約50兆円)相当の中国の製品にかけた場合、中国のアメリカへの全輸出額は1400億ドル(約14兆円)減少するだろうと述べています。これは、中国のアメリカへの全輸出額の28%に相当し、中国のすべての国々に対する全輸出額の6.2%に相当します。そして、中国のGDPの1.2%に相当します。輸出の減少によって、GDPの伸び率は6.7%(第二四半期)から5.5%まで減少します。
リャオ氏は、上記の数字は単なる概算であると言います。もし間接的な要素も考慮すると、影響はより甚大なものとなるでしょう。
中国人の解説者で中国に焦点を当てた人気のあるYouTubeチャンネルを放送しているウェン・ザオ氏によると、中国の製造業での平均的な利益幅は2016年にたった3.3%だったそうです。そのうち半分の工場の利益幅は2.5%未満でした。輸出をする製造業者では、ほとんどが2.5%未満の利益幅でした。したがって、10%の関税はこれらの工場が生みだせるすべての利益を相殺してしまいます。これにより、工場の閉鎖や多くの労働者の解雇が増えることが懸念されるとのことです。