焦点:中国「金融難民」の怒り爆発、P2P業者の破綻急増

[北京 12日 ロイター] – 8月6日未明、自宅で寝ていたピーター・ワンさんは、訪れた警察官に拘束された。この日予定されていた抗議行動を計画したとの容疑である。

北京市内の各地で、他にも同じように抗議行動に参加しようとして警察に逮捕された人がいる。いずれも、個人間で資金を融通する「ピア・ツー・ピア(P2P)融資」サイトに投資して損失を被った人たちだ。なかには、はるばる山東省や山西省から北京まで来た人もいた。

彼らが釈放されるころには、北京の金融中心部にある中国銀行保険監督管理委員会(CBIRC)本部の周辺では、ソーシャルメディア上のチャットグループのなかで計画されたデモが、厳しい警備によって不発に終わっていた。

P2P投資家2人によれば、抗議行動が予定されたエリアにたどり着いた参加者は、破綻したP2P金融企業数百社の救済を政府に要求するまもなく、強制的にバスに乗せられ、北京郊外の久敬荘にある抗議参加者用の収容所に運ばれたという。

「身分証明書をチェックし、抗議用プラカードなどを見れば、自分の権利を主張するためにその場所に来たことが警察に分かってしまう。そして、すぐさまバスに押し込められた」とワンさんは言う。

自動車修理工場で働いているワンさんは、釈放された後、北京市内の別の場所で行われた小規模な抗議行動に参加した。「どんな問題にせよ、解決のためのルートがない。政府が気にしているのは、とにかく混乱を予防することだけだ」

中国のP2P金融産業の規模は他国すべてを合わせたよりもはるかに大きい。深セン市銭誠互聯網金融研究院が運営するデータ提供サイト「第一網貸(P2P001.com)」によれば、融資残高は1兆4900億元(約24兆円)に達するという。

P2P金融は、個人投資家から資金を集め、小規模な企業や個人の借り手に融資して高いリターンを約束するもので、中国では2011年、ほぼ規制のない状態で始まって盛んになった。ピークとなった2015年には、こうしたビジネスが約3500社を数えた。

だが、中国政府が国内の肥大化したノンバンク融資セクターを含む債務バブルの抑制と経済のリスク低減を目指すキャンペーンを開始した後、投資家が資金を引き揚げ始めたことにより、ほころびが目立つようになった。

やはりP2P金融のデータを提供しているサイト「網貸之家(wdzj.com)」によれば、6月以来、オンライン金融サイトの運営企業243社が破綻したという。網貸之家によれば、この業界では同じ時期、月間での資金収支が初の純流出となっており、少なくとも2014年以降では初めてのことだという。

予定されていた抗議行動へと至る最近の投資家からの怒りは、6月30日を前に燃え広がった。この日は、各社が新たに設定された商慣行基準を達成する期限とされていたが、基準そのものが未完成である。

オンラインで小額融資サービスを提供している信而富<XRF.N>のゼイン・ワン最高経営責任者(CEO)はロイターに対し、多くの事業者が厳格化された規制に取り組むよりは廃業することを選んだと語る。

これはP2P金融市場全体にパニックを引き起こした。投資家はP2P金融企業から資金を引き揚げようとし、ワンCEOによれば、大規模な事業者の対応はマシだったものの、小規模な事業者の多くは流動性不足に陥ったという。

「この混乱を経て勝者として抜け出すサイトもあるだろうが、恐らく大部分のサイトは立ち直れないのではあるまいか」と彼は言う。

中国政府は、米国との貿易戦争や株式市場・人民元相場の急落にもかかわらず、自国経済と金融市場は健全であるとして国民を安心させようとしており、国策宣伝機関は活動を開始している。

政府系の主流新聞であるか独自色の強い刊行物であるかを問わず、中国本土のメディアは首都北京における抗議行動の動きをまったく伝えていない。

抗議に参加しようとした人々の多くは、指紋と血液サンプルの採取を強制され、北京への旅行を禁止された。130万元(約2100万円)の損失を経験した上海のP2P投資家によれば、抗議を前に北京行きの列車から排除された人さえいたという。彼女は身の安全を懸念して、氏名を明かすことを拒んだ。

デモが事実上鎮圧された後も、CBIRC本部の周辺では数百人の警備員が巡回しており、当局がいかなる形であれ社会不安に対して敏感になっていることを浮き彫りにしている。

CBIRCにはメールでコメントを要請したが、回答は得られなかった。公安部にもファクスでコメントを求めたが回答はない。

国営新華社通信は12日、政府がP2Pセクターのリスク低減に向けて10項目の措置を提案したと報じた。そのなかには、地方当局が新たなP2P業者やオンライン金融プラットフォームの設立を認可することを厳格に禁止したり、P2P融資の返済を逃れようとした借り手は中国の信用格付けシステムのブラックリストに記載されたりすることなどが含まれている。

<厄介な整理作業>

P2P金融という分野を開拓したのはレンディングクラブ<LC.N>などの米国企業だが、大規模な拡大がみられたのは中国である。資金調達に悩む中小企業を対象とした政府の金融イノベーション推進に企業がただ乗りした格好だ。

業界の拡大があまりにも急だったため、規制当局も追いつけなかった。

P2P金融サイトの多くは、商業銀行にとってはリスクが高すぎるとみなされかねない顧客に融資している。融資が焦げ付きそうな場合に資金を即座に引き揚げたいという投資家が多すぎると、流動性危機につながる場合がある。

また、露骨な詐欺の例もみられる。最も有名なのはe租宝で、90万人以上の投資家を巻き込む76億ドル(約8400億円)規模の、いわゆる「ネズミ講」詐欺である。

中信証券による7月の調査報告では、中国国内の株式市場に上場している企業100社超がP2P金融ビジネスに関与しており、そのうち32社はP2P金融企業の株式を30%以上保有している。

オンライン金融浄化キャンペーンの期限も6月30日とされていたが、中国政府はこれを2年間延長した。だが市場ウォッチャーによれば、この延長は事態を落ち着かせるどころか、より大きな不確実性を生み出したという。

この浄化キャンペーンのもと、現行の規制でさえ基準を満たして認可を得られるのは、1836サイト中、約100サイトにすぎないと中信証券は推測している。そのうち成功できるのは50に満たないだろう。

規模の大きな企業にとっては、恐らく規制強化が追い風になるだろうと専門家は指摘する。だが今のところ、この業界に参入している上場企業の株価は下落している。

米国株式市場に上場している中国のP2P金融企業の一部でも株価が急落。信而富の株価は年初来73%下落した。宜人貸<YRD.N>の株価も71%の下落だ。同じく拍拍貸<PPDF.N>は44%、和信貸<HX.O>は27%となっている。

拍拍貸の関係者はコメントを拒否した。

和信貸はプレスリリースのなかで、リスクマネジメントを改善し「信用リスクをさらに低減する」としている。

宜人貸の過半数株式を保有する宜信の創業者でCEOのタン・ニン氏はロイターに対し、「業界全体にわたるパニック」がエスカレートすることを懸念していると語った。

タン氏は、規制当局に対し、中国の金融システムおよび経済にダメージが波及することを避けるために悪質な企業を処罰しつつ、優良なP2P金融企業を保護するよう「切迫感をもって行動する」ことを求めている。

「さもなければ、P2P金融産業は『冬の時代』を迎えることになる。非合法な企業も適格な企業も、すべての企業が打撃を受ける。全員が負け組になるという、誰も望んでいない状況になる」とタン氏は言う。

「小規模な企業は重要な、いや、最も重要な資金調達先を失うことになるだろう。これは金融システムだけでなく、実体経済にとってもダメージになる」

北京に住む投資家のワンさんにとって、打撃は大きい。彼とその家族は、今年末に住宅を購入すべく貯蓄してきた700万元(約1億1300万円)を2つのP2P金融サイトに投資していたが、どちらも閉鎖されてしまった。

投資はまったく回収できていない。

「私たちは暴徒ではなく、金融難民だ。私たちが求めているのは自分の資金を、少なくともその一部なりとも取り戻すことだ」とワンさんは語った。

(翻訳:エァクレーレン)

 
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