焦点:自動車各社、中国政府の「過剰設備対策」に戦々恐々

[北京 4日 ロイター] – 中国政府は自動車メーカーの新規生産設備向け投資を制限するとともに、合併や戦略的提携を通じて業界再編を進めようとしており、業界内から手足を縛られる事態を警戒する声が出てきた。

自動車の過剰生産能力増大問題に取り組んでいる中国国家発展改革委員会(NDRC)は、メーカー側に新規生産設備建設を認める上で、既存設備の稼働率や研究開発投資の水準、グリーンカー生産台数が業界平均を超えていることなど、非常に厳しい条件を導入する仕組みの素案を7月に公表し、関係者から意見を募集している。

この案に業界は仰天した。

なぜなら実際に導入された場合、条件を完全に満たせるメーカーはごくわずかしか存在しないからだ。ある世界的メーカーの中国駐在幹部は「事実上もう新しい工場はほぼなくなるという意味だ。政府は設備を拡張するよりも、稼働していない既存の工場を活用することを望んでいる」と話した。

折しもトヨタ自動車<7203.T>や日産自動車<7201.T>、吉利汽車などは新規生産設備投資に熱心な姿勢を示している。

ただ4人の関係者の話では、NDRCは太陽光パネルや鉄鋼、造船などで以前に起きた過剰設備問題に起因する危機が自動車業界で起きるのを防ぎたい考えだ。また新規生産設備の確保を難しくすることで、業界再編のきっかけを作りたがっているという。

<肥大化>

プライスウォーターハウスクーパーズ(PwC)が昨年実施した調査に基づくと、中国の今年の自動車生産能力は4280万台で、その約3分の1に相当する1400万台分が遊休状態とみられる。

中央政府や地方政府が経済発展および雇用創出を狙って補助金を大盤振る舞いした結果、自動車業界は急速に拡大してきた。しかし今や成長が頭打ちとなっているほか、電気自動車(EV)生産で新興企業も競争に参入してきたため、事業不振のメーカーは市場からの退出を迫られている。

こうした中でNDRCは「生産統合化や業界の集中化のために、各社に合併や再建、資本投資などを通じた戦略的提携を促す」ことを希望している。

業界もNDRCが打ち出した政策の「精神」はおおむね支持するとはいえ、もう少し手綱を緩めてほしいのが本音だ、と先の4人は解説する。

このうちの1人は「われわれの最大の懸念は、新たな政策が業界の健全で自発的な発展の障害となってしまうことだ。われわれは干渉を受けずに自由に事業計画や投資を行う裁量を奪われてしまう」と漏らした。

NDRCは前週末、提案を修正する可能性はあるが、投資の締め付け方針は変えない意向を示唆した。幹部のNian Yong氏は1日、自動車業界の「行き当たりばったりの投資や不必要な開発」を断固阻止すると強調した。

<有名無実化>

中国汽車工業会(CAAM)幹部のXu Haidong氏はロイターに、自動車セクターへの資本投入は長期的な成長期待に基づいていると指摘。「ただし業況の過熱とその後の落ち込みという誰もが知っている過去のパターンを踏まえると、政府は投資に制御が効かなくなり、むやみに施設が建設されたり、無秩序な発展が起きるのを防ぎ、良質な発展を促進する必要がある」と訴えた。

もっとも業界の一部関係者は、NDRCがどんなに厳しく新規施設向け投資を制限しても、地方の各省や都市が投資誘致競争を展開している点からすれば、規制は「有名無実化」するかもしれないとの見方を示した。

関係者の1人は「各省政府は新規投資を呼び込むことを優先し、NDRCの規則を無視するための手段を探そうとするだろう」と予想している。

(Norihiko Shirouzu、Yilei Sun記者)

 
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