7月上旬に発覚し、中国全土の親たちをパニックにさせた不正ワクチン事件。2カ月が経過した今、中国政府はワクチン偽造に至った経緯など関連の情報を公表しておらず、世論が求めている専門家チームの調査、メディアの報道を規制している。中国問題専門家は、この事件は、中国の抱えている様々な問題がいっそう深刻化したことを反映したとし、根絶するのは事実上不可能と指摘した。
内部告発によって発覚する9カ月前に、地方当局はすでに事実関係を把握していながら有効な対策を取らなかったことが判明した。
不正を起こした2社のうち、長春長生生物科技は中国ワクチン市場の25%を占める大手。当局の発表では、市場に流通した不正ワクチンは2社合計で約65万本以上、そのうち回収できたのは約180本。
中国当局は「今のところ、健康被害の報告はない」としているが、我が子が接種したワクチンが該当するかどうか、親たちの不安と怒りが収まらない。インターネット上では「他社製造のワクチンは大丈夫なのか」という声も多い。
偽ワクチン約25万本を流通させた(当局発表)長春長生生物科技の社長と上層部十数人が逮捕され、344万元(約5,500万円)の罰金処分を受けた。同40万本以上(同)を流通させた国営企業、武漢生物には金額非公開の罰金処分にとどまった。
中国でのワクチン不正疑惑は昨今に起きたことではない。十数年前から、一部の記者や人権派弁護士は調査をはじめ、告発・報道に踏み切ったが、解任されたり音信不通になったりし、問題は闇に葬られていた。
一例として、2010年に山西省で発生したワクチン不正問題で、中国経済時報の記者・王克勤氏は独自の調査を行い報道したものの、まもなく報道を許可した新聞社のトップとともに懲戒免職された。
今回のワクチン事件で、国家食品薬品監督管理局(SFDA)の管理・監督責任を問う国民の声は多勢だが、処分を受けた幹部はいない。
2008年に発覚した、乳児6人が死亡、30万人以上に健康被害が出たメラミン入り有毒粉ミルク事件で、当時SFDAの孫咸澤・司長は行政処分を受けたものの、2年足らずで副局長に昇任し、今年2月定年までにこのポストに定着した。
中国の政治・社会に詳しい有識者は、今回のワクチン事件からみえたのは、中国の政治体制を崩壊させ得る様々な問題がいっそう深刻になったことだと指摘する。
「中国は信仰・言論・人権を厳しく統制する監視社会で、それに対して国民の不満がまずたまっている。一方、中国共産党が全てを決める。だが責任を負う者はいない、腐敗は政治・経済などあらゆる分野に深く浸透し、メディアによる世論監督の機能がない、法律は空文で司法制度は形骸化、それにくわえて国民は道徳心に由来する自己抑止力が乏しく、拝金・利己主義が社会の風潮になっている。そのため、有毒食品・有毒薬品問題を防ぐのは不可能で今後も頻発する。もっと言うと、世界第二位の経済大国だが、前述のいずれも時限爆弾のような問題により、政治も経済も蜃気楼や砂浜に立つ高層ビルのように脆く、ファンダメンタルズは非常に弱い。