[東京 9日 ロイター] – 来年から予定されている日米通商交渉に向けて、日本企業では、米国側が望む直接投資よりも対米輸出の拡大への期待が大きいことがわかった。
一方、交渉で米国に妥協を強いられるとの見方が多く、日本製品の輸入制限や高関税適用が最大の懸念となっている。為替条項導入への懸念は限定的だった。米中摩擦は2020年以降も継続するとの見方が5割超となり、先行きは一段と深刻化するとの見方が過半数となった。
調査は10月24日から11月5日にかけて実施した。資本金10億円以上の中堅・大企業482社に調査票を送付。
<自動車も投資より輸出拡大に期待>
日本は米国と二国間の通商交渉を行うことになったが、多くの企業で「米国ペースで一方的に押しまくられる懸念が強い」(機械)、「不平等なスキームとならないことを期待する」(輸送用機器)といったコメントに不安がにじんでいる。背景には「安全保障を絡めて交渉されると、最後は要求をのまざるを得ない」(輸送用機器)といった事情があるためだ。
懸念が最も強いのが「米国による日本製品の輸入制限・高関税の適用」で全体の53%を占めた。特に「輸送用機器」、「鉄鋼・非鉄」、「化学」の3業種で不安の声が多かった。
それでも企業は米国との貿易取引の活発化を期待しており、「対米輸出の拡大」を望む声が50%を占めている。米国側が求める「米国への直接投資の拡大」に期待する企業は10%と少なかった。高関税や数量制限の対象になりかねない「輸送用機器」においても対米投資拡大に期待する声は7%にとどまり、60%が対米輸出拡大を望んでいる。
日本企業の米国現地法人で中国からの資材調達などに高関税が課せられることや、新たな貿易の枠組み「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」により現地生産比率が引き上げられることで、北米・中米での生産環境は悪化している。直接投資による現地生産の魅力が低下しており、企業側からすれば輸出拡大に期待せざるを得ない面もある。
対日赤字を減らしたい米国とどう調整を図るのか、交渉力が問われることになる。
他方、輸出環境に大きく影響する為替については、政府の相場介入を制限するような条項の導入の可能性も否定できないものの、懸念する声は14%だった。「どのような落としどころになるのか、為替や株式市場の動向を含めて注視している」(その他製造)との声もある。
<米中戦争は覇権争い、当初見方より深刻に>
米中貿易戦争については、双方が第3弾の措置まで発動している中で今後の見通しを聞いた。日本企業は長期化を視野に入れつつあり、51%が「2020年以降も継続する」とみている。「当初見込んでいたより長期化する見通し」が53%を占め、想定していた以上に長引く可能性があると予想されている。
時間の経過とともに摩擦が緩和していくとの見方は少なく、「かなり深刻化する」が14%、「やや深刻化する」が42%など、合わせて56%がむしろ悪い方向に向かうとみている。
「米中貿易摩擦の本質は米貿易赤字の問題ではなく、世界秩序を採るリーダーが中国になることを米国が本気で阻止しようとしていることにある」(電機)、「知的財産を含む技術覇権の争い」(建設・不動産)といった見方が広がっており、貿易摩擦が今後も長期化・深刻化するとの見通しにつながっている。
(中川泉 編集:田中志保 )