【動画ニュース】ドイツメディア「中国の産業スパイがドイツの基幹産業を狙っている」

ドイツ政府はこれまで、中国の諜報員がソーシャルメディアや政府機関に積極的に浸透していると何度も警告してきましたが、ドイツメディアもこのほど、中国の諜報員がドイツ基幹産業に触手を伸ばしている可能性を指摘しました。

ドイツ国際放送ドイチェ・ヴェレは11月4日、ドイツで最も高い経済力を誇る地域の一つ、バーデン=ビュルテンベルク州が、この数年で中国諜報機関のターゲットとなった事例の増加を報じました。地元の経済を支える自動車産業が最も被害を受けています。

バーデン=ビュルテンベルク州内務省は州議会での質疑応答の際に、2012年以降、州警察が摘発した合計8件の産業スパイ事件のうち、少なくとも6件について中国が関与した可能性を否定できないと指摘し、発見されたネットワークセキュリティの脆弱性のすべてが報告されているとは限らないとも述べています。

サイバースパイの被害を受けているのは中規模企業だけではありません。シュトゥットガルトの自動車メーカーも国外からのサイバー攻撃を受けています。

メルセデスベンツやポルシェの本社工場もシュトゥットガルト近郊に位置しています。

オーストリア在住の張小剛(ちょう・しょうごう)博士は、中国は長年にわたり「国策」の一つとして、先進国の商業・経済・技術分野における機密の不正取得を政府主導で行っていると指摘しています。

豪州在住 張小剛氏

「ドイツは政府レベルでこの問題を意識し防衛を開始したが、これは自分が犯してしまった失敗に懲りて用心しているのだ。手痛い経験を経て、欧米諸国は中国が長い時間をかけて技術を盗み、欧米諸国の国民のニーズに全く関心がないことにもようやく気が付いた。中国は完全に自分だけのために「我が国はすごい(という宣伝)」を行っている

ドイツ政府筋は、サイバー産業スパイにより毎年バーデン=ビュルテンベルク州に約70億ユーロ、日本円でおよそ9030億円の潜在的な経済損失が生じていると指摘しています。ドイツ全体では産業スパイ活動により毎年500億ユーロ(6兆4501億円)もの直接的な経済損失が生じています。

中国のIT技術者  陳達威氏

(中国の)諜報活動は常に存在する。中国がなぜ高品質低価格であれほど多くの製品を製造できるのか。すべての特許料を支払ったのでは不可能だ。また独裁政権下では、国内での人材育成などできない。よって『発明』が行われる見込みは、基本的にはない

中国のIT技術者、陳さんは、現在中国に多数存在する携帯端末メーカーは、知的財産権を盗まなければ会社を存続させることができないと指摘しています。

中国のIT技術者  陳達威氏

サムスン電子のスマートフォンは約3,000元(約50,000円)で販売されているが、(技術を不正入手すれば)1,000元ほどのコストで生産でき、これを1,500元で売れば利益が出る。だが特許料を支払った場合、コストはサムスンと同じかそれ以上に跳ね上がる。自身が核心技術を持っていないため、すべてに特許料を支払わなければならないからだ

以前からドイツは、中国の諜報活動の浸透について何度も警告を発していました。

昨年12月、ドイツ連邦憲法擁護庁は、中国の諜報員が情報提供者を得るためにソーシャルメディアを利用し、数万人のドイツ人がターゲットにされたと警告しました。

中国政府はこれを「根拠がない」と退けましたが、ドイツ側の疑いは払しょくできていません。

南ドイツ新聞(Sueddeutsche Zeitung)は今年7月、ドイツ国会でも中国の諜報活動が行われ、あるドイツ議員が彼らの策略にはまりかけたと明らかにしました。中国国家安全部はビジネス特化型SNSのリンクトインに、ドイツ各界の重要人物へ接触することだけを目的として、少なくとも500個もの偽アカウントを取得しています。

ドイツ連邦情報局(BND)は、中国の諜報員は100万人を超えると推定しています。

今年2月、ドイツの二大研究所が合同で、中国が欧州メディアに猛攻を仕掛けており、ドイツの一部大手メディアも自社の都合だけを考えているわけにはいかなくなったとの調査報告を発表しました。

続いて、南ドイツ新聞が中国国営メディアから提供される『中国観察』の記事の掲載を中止すると発表しました。

4月上旬、ドイツ連邦憲法擁護庁局長のハンス・ゲオルグ マースン氏は、ドイツ企業が中国資本に買収されると国家安全が危険にさらされる恐れがあるとして、新たな産業スパイ活動に対し警鐘を鳴らしています。

中国家電大手の美的集団(Midea Group)(びてきしゅうだん)が2016年、ドイツの産業ロボット企業クーカ(KUKA)を46億ユーロ(約5934億円)で買収したことが、その典型的な例です。

張小剛氏

中国ではこの1~2年、ドイツの技術を手に入れ、中国がドイツに追いつき追い越そうとしていると得意気に報じられている。自動車産業やロボット産業、機械製造産業など、ドイツ人が製造する非常に精密で先進的な分野は、これまでずっとドイツの基幹産業だった。現在、中国はこれらの技術を不正に取得し、ドイツの基幹産業からの不正な利益移転をすでに開始した

さらにドイツは、中国から導入する機器設備に対しても警戒心を強めています。

ドイツ『週刊経済(WirtschaftsWoche)』は今年3月、ドイツ市場で絶対的優位な立場を獲得した華為(ファーウェイ)など中国の電気通信機器メーカーが、製品の中にひそかに「バックドア」を設けた場合、中国はドイツ企業のデータを簡単に盗むことができると報じました。この報道について、バーデン=ビュルテンベルク州議会自由民主党はすでに州政府に対し質問を提起しています。

 
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