[東京 16日 ロイター] – 11月末の米中首脳会談で経済摩擦を収束させる合意に至らない場合、2019年の世界経済は、貿易量の縮小を背景に「逆風」に直面するリスクが高まっている。さらにわが国は、対米通商交渉も始まり、その結果次第では、国内需要に大きな影響が出かねない。概括的にみれば、トランプ米大統領の出方次第で、来年の日本経済は「天国」と「地獄」の両方に行く可能性があるといえる。
<注目の米中首脳会談、摩擦決着しない可能性も>
11月末にアルゼンチンのブエノスアイレスで開催されるG20(20カ国・地域)首脳会議に合わせ、米中首脳会談が開催される予定。
これに関連し、英フィナンシャル・タイムズ紙は15日、匿名の関係筋の話として、ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表が一部の業界幹部に対し、米中通商協議が進められる中、米政府は中国部品に対する新たな関税措置の導入を保留していると明らかにしたと伝えた。
ただ、USTRの報道官は、この報道を否定。市場の疑心暗鬼を生み出している。
また、米政府当局者は15日、米による通商改革要請に対し、中国が142項目に及ぶ回答書を示したが、問題の打開につながる可能性は低いと言明。首脳会談では大きな進展は見込めず、協議の継続で合意することが最善のシナリオの1つだと、ロイターの取材に答えている。
上記のように進展するなら、19年の貿易量は縮小の圧力を受けるだろう。世界貿易機関(WTO)は9月27日の段階で、2018年の貿易量が前年比3.9%増と4月時点の見通しから0.5%ポイント引き下げている。19年も同3.7%増と4月時点から0.3%ポイント引き下げた。
米中貿易戦争が長期化するなら、さらに貿易量を押し下げる圧力がかかるだろう。中国商務省は、日系3社による工作機械の対中輸出分を対象にして、反ダンピングの調査を開始した。これも米中貿易摩擦の「余波」と言える。
米中両国の通商政策に詳しい阿達雅志・国土交通大臣政務官(自民党参院議員)は12日、リフィニティブのニュースセミナーで、米中間の貿易摩擦の背景には、両国による覇権争いがあり、貿易をめぐるつば競り合いは長期化するとの見通しを示した。
また、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は14日の講演で、世界経済は18年に入ってやや減速しており、貿易戦争によって関税の対象が拡大すれば、現在は好調な米経済にとっても、景気減速やインフレの可能性が出てくると言及した。
<対米貿易黒字7兆円、注目される削減方法>
また、日本には、世界経済の減速リスクに加えて、日米通商交渉による影響ものしかかるリスクがある。日米間には年間約7兆円の貿易不均衡(日本側の黒字/米国側の赤字)が存在する。そのうち約4兆円は日本からの自動車輸出が占める。昨年は174万台の完成車が輸出された。
阿達氏は12日のセミナーの中で、米国はこれまでの非公式なやり取りの中で、日本からの自動車輸出の大幅な削減を求めていたと述べた。
ハガティ駐日米大使は16日の会見で、日本からの自動車輸出減と現地生産の拡大、米国車・農産物輸入の拡大の全てが、米貿易赤字削減には必要との見解を示した。
自動車輸出の大幅な削減を強いられれば、自動車メーカーの経営に大きな打撃となるだけでなく、マクロベースでみた日本経済にも大きな影響が出かねない。
政府は安倍晋三首相を筆頭に、国益に反する合意はしないと明言している。しかし、トランプ大統領の出方によっては、自動車や農産物などで大幅な譲歩を飲まざるを得ない状況に直面するリスクもある。
<あるのか安倍政権への配慮>
米中貿易摩擦、日米通商交渉ともトランプ米大統領の政策判断次第で、結末が大きく変化する。米中摩擦を早期に決着させ、安倍政権に「深手」を負わせない配慮が働けば、消費増税対策で大規模な財政出動も検討されており、19年の国内景気は大きく下降するリスクを避けることができるだろう。
しかし、トランプ大統領が中国の「製造2025」を骨抜きにするほど圧力をかけ続け、中国経済の成長力がめっきり弱まることになれば、世界経済への影響は、足元の予想を大幅に上回る事態になりかねない。
また、7兆円の赤字を兆円単位で短期間に削減するよう日本に求めてきた場合、株価への影響が深刻化し、企業と家計の心理が悪化して、戦後最長の景気拡大を前に、腰折れする危機も現実味を帯びかねない。
そのケースでは、政府が真剣に消費税10%への引き上げ断念を検討していることもありうる。
このようにみてくると、19年の日本経済の行方は、トランプ大統領の決断に大きく左右される構図になっていることが、よくわかるのではないか。
トランプ大統領と日本の関係は、世界のどの国に比べても非常に「近い」と言えるだろう。