中国共産党の浸透工作に各国が警戒を強める中、AP通信が中国国営メディア・新華社通信との業務提携拡大を発表しました。驚きの声が上がる中、米国議会議員もこの件を重く見て、AP通信に対し新華社通信との最新の提携関係についての説明を求め、さらに新華社との提携に関する覚え書きの内容を公開するよう要求しました。
米大手通信社のAP通信と、中国最大の国営通信社・新華社通信は、1972年にニュース相互協定を締結しました。
新華社通信は昨年11月末、AP通信のCEOゲーリー・プルイット(Gary Pruitt)氏が北京で新華社の蔡名照(さい・めいしょう)社長と面会し、ニューメディアや人工知能(AI)、経済情報などの分野における業務提携の拡大に合意したと報じました。
これを重く見たのが米国議会の議員です。12月19日、米議会下院のマイク・ギャラガー議員、ブラッド・シャーマン議員が連署を発起し、トム・コットン議員、マーク・ワーナー議員、マルコ・ルビオ議員など計14人が共同で、AP通信社長あてに書簡を送りました。
書簡では、新華社の核心的使命は、世論を通じて中国政府の合法性と行動を形成することで、AP通信の独立性とは全く対照的なものだと指摘されています。
書簡ではまた、AP通信と新華社通信との間の了承事項が記された覚え書きと今後の提携計画を公開し、新華社がAP通信の報道に干渉できず、AP通信が有するすべてのセンシティブな情報を入手できないことを保証するよう求められています。
ウェブサイト「改変中国」を営む曹雅学(そう・ががく)さんはこの提携拡大に懸念を示し、米国議会はAP通信に覚え書き全文を公開させる必要があると促します。
ウェブサイト「改変中国」 曹雅学氏
「これは憂慮すべき状況だ。新華社は普通の通信社ではないからだ。新華社の報道内容は完全に共産党の政治ニーズに奉仕するものだ。また、報道内容もすべて党の言いなりだ。新華社はいつも事実の歪曲やねつ造を行っている」
個人メディア「加国の声」で情報を発信する頼建平(らい・けんペイ)さんは、AP通信と新華社が提携できることは意外だとし、まるで白と黒、正義と悪が提携するようなもので、非常にショッキングだと語っています。
個人メディア「加国の声」 頼建平氏
「私には理解できないことだ。周知の通り、新華社とAP通信は本質的に対立するものだ。新華社は純粋な宣伝機関であり、(国民の)マインドコントロールを行い、一党独裁政権を維持するための党の道具だ。AP通信は米国や世界に自由にサービスを提供する自由社会の独立メディアだ」
頼さんは、この提携で最終的にしてやられるのはAP通信、中国当局の下僕として抑圧される中国人、そして自由社会だと指摘します。
個人メディア「加国の声」 頼建平氏「中国の党メディアは対外的に2つの機能を持っている。1つ目は浸透と拡張、2つ目は情報収集で、当局の特務機関の役割を果たしている。よって、AP通信と新華社の提携により、AP通信自体に(中国共産党思想が)浸透するだけでなく、世界中の世論が中国共産党メディアに汚染されることになる。汚水ときれいな水が提携するようなもので、汚水はきれいな水を必ず汚染する」
昨年9月、米国司法省は新華社通信など中国メディア2社をを共産党宣伝機関と認定し、『外国代理人登録法』への登録を義務付けました。
米中経済・安全保障調査委員会(USCC)の2017年年次報告には、新華社は中国当局の宣伝機関であると同時に一部情報機関としても活動していると記されています。報告書はさらに、新華社を世界規模で急速に広めることで西側メディアの信用を失墜させ、中国に対する大衆の見方をコントロールすることを意図していると警告しています。
米日刊紙ワシントンポストは12月24日、AP通信のスポークスマン、ローレン・イーストン氏が、両社間の提携は、AP通信が中国国内における営業許可を得るためのもので、AP通信の独立性には影響せず、いかなるAI情報やその他の技術のシェアもないと述べたと報じました。同氏はさらに、新華社はAP通信が有するセンシティブな情報を入手するルートは持っておらず、AP通信の報道に干渉することもないと述べています。
しかしまだ懸念を示す声があります。
ウェブサイト「改変中国」 曹雅学氏
「AP通信のスポークスマンは、「資料映像程度のものをシェアするだけだ」と言って、このように重大な問題を軽く取り上げている。これにはますます不安になる。中国の浸透方式は、茹でガエルの法則と同じだ」
個人メディア「加国の声」 頼建平氏
「真の提携などできるわけがない。彼らの「提携」とは買収や、浸透にすぎず、AP通信を中国当局の代弁者に仕立てあげるにすぎない。中国がウソを喧伝するのを助け、一党独裁政権の合法性を宣伝させられるだけだ。それ以外の結果を私は想像できない」
ラジオ・フランス・アンテルナショナルは、AP通信と新華社通信の業務提携を「奇妙なことが起きた」と形容しました。
ワシントンポストは中国の「影響力を及ぼす行動」に警戒するよう呼びかけました。