いまアメリカでもっともホットな話題に、「フェイクニュース」があります。
驚くべきことに、最近「フェイクニュース」を支持する人たちが、少しずつ増えてきています。
虚構のニュースが、なぜ人々の支持を?
それは「フェイクニュース」の定義が、人によって異なるからです。
ある批評家は、「ことソーシャルメディア上の『フェイクニュース』に限って言えば、『開かれた社会』にふさわしい、言論の自由の象徴だ」と評価しています。。
しかしながら、平均的なアメリカ人が、どのニュースが真実で、どのニュースが悪質なデマであるか見分けられる保証は、どこにもありません。
むしろ、奇しくも1世紀半前、フランス人のアレクシス・ド・トックビル(1805-1859)が指摘したように、「アメリカほど、信念と言論の自由を欠いた国はない」のです。
アメリカにおいて、フェイクニュース最大の弊害は、アメリカ世論に甚大な影響を及ぼす、海外勢力からのプロパガンダです。先の大統領選において「ロシア疑惑」の見出しが何度も紙面におどったのは、実は、裏で中国政府が糸を引いています。
当の中国においては、「フェイクニュース」はめずらしいことではありません。14億の中国人にとっては、日常茶飯事です。
中国政府による法輪功に対する弾圧を研究すれば、中国共産党宣伝部のメディア操作の手の内をすべて知ることができます。「フェイクニュース」とは何か?を考えるうえで、最良のケーススタディとなります。
当初は法輪功を絶賛していた中国共産党
中国共産党によって行われたすべてのメディアキャンペーンのうち、法輪功に対する攻撃は、特筆すべきものです。
それは文化大革命時代のプロパガンダを彷彿とさせる熾烈なものでした。
法輪功について、簡単に紹介しましょう。
法輪功は1992年に、創始者・李洪志氏によって中国で伝い出されました。
法輪功は中国の伝統に根ざした気功修煉法であり、2つのコアがあります。
①真・善・忍に基づくいて自分自身を律する
②煉功による心身の鍛錬
両者の「実践者」こそが、自己実現と悟りに到る、と法輪功は説いています。
実は当初、中国共産党は国営メディアで「法輪功が健康を増進させ、社会の道徳を高めた」と宣伝していました。
下記の中国共産党影響下のメディアでは、法輪功のすばらしさが紹介されました。
China Central TV (1993 & 1998)
People’s Public Security Newspaper (1993)
Qigong & Science Journal (1993)
Beijing Daily (1996 & 1998)
Medicine & Health Newspaper (1997)
Hong Kong TV (1998).
1998年11月24日、上海テレビ(STV)は、公園で法輪功を煉る地元住民の映像を放映し、次のように紹介しています。
「法輪功は中国国内をはじめ、香港、マカオ、台湾、ヨーロッパ、北アメリカ、オーストラリア、その他のアジア諸国に、ボランティアサイトを持っています。法輪功を実践している人は世界で1億人に上ります」
北京指導部の豹変
しかし、北京の指導部は突然、法輪功に対して敵意をむき出しにしました。
法輪功は当初、健康面での役立ちを中国共産党にアピールしていました。
US News&World Reportの記事によると、1999年2月時点で、中国スポーツ委員会の幹部メンバーは、次のように述べています。
「1億人の人々が法輪功を実践しているとすれば、年間1000億元(149億米ドル)の医療費の節約になるだろう。朱鎔基首相は法輪功の効果について非常に満足している。われわれは法輪功の活動に対して国家的な支援を行うつもりだ」
中国問題の専門家は、「その後、中国共産党は法輪功の急速な成長に脅威を感じた」と指摘しています。
実際、当時、党の最高指導者だった江沢民は、法輪功の成長を中国共産党の存続に対する脅威とみなしていました。
結局のところ、中国は共産主義国家なので、共産党の支配下にない、いかなる独立した組織も存在を認めていないのです。
さらに、法輪功の「真・善・忍」の理念は、共産党の「無神論」「階級闘争」「暴力革命」といった教条に反するものです。
中国共産党の創設者である毛沢東は、かつて「7〜8年ごとに政治闘争を行うべきだ」と主張していました。
その真の理由は、党が描くジョージ・オーウェール式全体主義社会を活性化させるために、定期的に新しい敵を必要とするからです。
すべての共産主義政権は、3つの共通の特徴を有しています。
1)暴力と恐怖による支配
2)情報の管理
3)共産主義のイデオロギーによるマインドコントロール
さらに、中国共産党のメディア戦略には、誹謗中傷、情報操作、詐欺、検閲が含まれます。
1999年7月20日。
江沢民は、法輪功を根絶するという決定を発表しました。
その3か月前の4月25日、北京の中国共産党本部のある中南海で、約1万人の法輪功学習者が法的承認と保護を求めました。
江沢民は、それを認めませんでした。代わりに彼は、法輪功に対する全国的な迫害キャンペーンを始めたのです。
迫害を組織的に行うために、「610弁公室」と呼ばれるゲシュタポまがいの非合法組織を設立しました。
法輪功学習者の大規模な逮捕が始まりました。そして、ありとあらゆる国営のプロパガンダ組織が、法輪功とその創設者に対して「お茶の間戦争」を開始したのです。
CCTVの夕方の通常30分のニュース番組は、法輪功を糾弾するための1時間のスペシャル番組に変貌しました。
610弁公室は、教職員に「反カルト」キャンペーンに協力するよう、小学校から大学までの教育機関を含むすべての社会部門に命令を発しました。
さらに、中国共産党宣伝部は、法輪功をカルト集団として排斥するために、法輪功学習者とは無関係な1,400件の「自殺事件」を、法輪功による狂信的な自殺であると喧伝しました。
ベテランの中国問題の専門家たちは、この策略が信じられないほど卑劣なものだと感じました。
第一に、法輪功は他の仏教宗派と同様、いかなる場合も自殺と殺人を禁じています。
第二に、法輪功は1992年に活動を開始していますが、1999年7月に中国共産党宣伝部が「自殺訴訟」を起こすまで、中国での法輪功に対する自殺訴訟は1件もありませんでした。また、法輪功は世界70カ国以上で実践されていますが、中国以外での法輪功を原因とした自殺事件はいまだに報告されていないのです。
天安門での自殺プロパガンダ
中国共産党による法輪功弾圧の中でも最も悪名高いのが、2001年1月23日に天安門広場で起きた「焼身自殺事件」です。
西側のジャーナリストは、この事件はすべては中国当局が仕組んだ「ショー」だと断定しています。
中国共産党宣伝部は、「5人の法輪功学習者が天安門広場で『これから天国に行く』と言って自殺を図り、うち1人は死亡した」と発表しました。
しかし、国際社会はこの主張にNOを突き付けました。
自殺未遂の4人に対しては、海外の報道機関はもちろん、彼らの家族すら接触が禁じられ、国営メディアだけが「法輪功による犠牲者」への取材を許可されました。
ワシントンポストが2001年2月4日に『焼身自殺の火は、中国の深い闇を照らす』というレポートを発表するまで、中国共産党宣伝部はこの「自殺事件」でヘッドラインを埋め尽くすよう指示していました。
焼身自殺した女性・劉春玲は、「ナイトクラブで働いており、不純な交遊から金銭問題を抱えていた」と報じられました。
しかし、彼女の行動は法輪功学習者が守り続けている道徳基準からほど遠いものであり、そもそも、彼女の隣人は、誰ひとりとして彼女が法輪功を練習しているのを見たことがないのです。
さらに不可解なことには、劉春玲の12歳の娘・劉思影(自殺未遂の5人のうちのひとり)は、事件の2か月後に死亡しましたが、当日現場にいたCNNレポーターは、5人の自殺未遂者の中に子どもはいなかったと証言しています。
中国共産党 インターネットにファイヤーウォールを構築して真実を遮断
大衆が「真実のニュース」にアクセスできないようにするため、中国共産党は2000年以来インターネットの検閲を強化し、「金盾」とよばれる、世界最大のファイアウォールを構築しました。
たとえば、マサチューセッツ工科大学(MIT)では法輪功のサークルが開催されているため、MITのWebサイトへの中国からのアクセスは完全にブロックされています。
2016年にハーバード大学が調査を行った際には、次のような報告がなされました。
「中国政府は200万人もの一般市民を使って、1年に4億4,800万件ものソーシャルメディアのコメントを作成し、投稿させていると推定される」
これらのオンラインコメンテーターは「五毛党」と呼ばれています。投稿1件当たり0.5元が報酬として支払われているためです。
彼らの仕事は、法輪功に対する人々の憎しみを刺激し、誤った情報を広め、国家宣伝を促進することです。
中国問題の専門家は、「法輪功学習者に対する恥ずべき人権侵害は世界の知るところとなり、法輪功に対する北京当局のキャンペーンは国内外で失敗に終わった」とみています。
さらに、1999年以降に投獄された法輪功学習者が受けた「臓器強制摘出」の国家的犯罪を、2006年に海外メディアによって報じられたため、中国共産党にとって法輪功は触れて欲しくない話題になりつつあります。
しかし一方で、北京から海外に向けてのメディア戦略は、新たな次元に達しつつあります。
チャイナデイリー(人民日報の海外版)やCCTV-4(CCTVの海外チャンネル)などの御用メディアに加えて、中国政府は2020年までに世界中に1,000の孔子学院を設立する計画です。
カナダのマクマスター大学は、差別訴訟の判決を受けて、2013年に学内の孔子学院を閉鎖しました。
その訴訟の過程で、2010年に雇用された講師のソニア・趙は、孔子学院により「学内では法輪功を実践しない」という契約に署名させられていたことが明らかになったためです。。
一方、アメリカ司法当局は、昨年、在米の中国系大手メディア、新華社通信と中国グローバルテレビネットワーク(旧CCTV)に対して、海外代理人登録およびロビイスト登録を認めました。
北京発のメディアは、共産主義のコンテンツを世界中に広める自由を享受する一方で、西側のメディアは中国のインターネットから遮断されています。
グーグル、フェイスブック、ツイッター、ユーチューブ、そしてその他の数多くの人気ウェブサイトは、すべて中国ではブロックされています。
当の中国国営メディアは、党と国家の宣伝のために、フェイスブックとツイッターのアカウントを持っているのだから皮肉な話です。
Apple Inc.は現在、中国のiCloudユーザーのアカウントについては、「中国国内のデータセンターにホストを置き、現地法に準拠している」としています。
これが事実なら、中国指導部は、国内のiCloudユーザーの保存データに自由にアクセスできることになります。
ジョージ・オーウェルが『1984年』で書いたように、「思考が言語を破壊できるならば、言語も思考を破壊できる」のです。そのときメディアは、共産主義社会におけるマインドコントロールのための宣伝ツールに成り下がります。
検閲と抑圧が生み出した「フェイクニュース」を正当化すれば、私たち共通の人間性をも損なうことになります。北京当局が善人のふりをして世界中にメッセージをバラまけば、純粋な人々はそれを信じてしまうかもしれません。こうして、利己的な「フェイクニュース」は、「真実」として消費されることになるのです。