アジア太平洋の政治・安保問題を専門とするオンライン雑誌『ザ・ディプロマット(The Diplomat)』は、中国の通信機器大手ファーウェイが世界中の注目を集める中、当局に協力してユーザーの監視を行うIT大手テンセント(騰訊)についても警戒するよう呼びかけています。
ザ・ディプロマットは3月26日掲載の文章で、全世界がファーウェイ設備の安全リスクに注目しているが、中国のIT大手テンセントがもたらしている危害に対しても、行動を取る必要があると指摘しました。
テンセントが提供するインスタントメッセンジャーアプリ「ウィーチャット(WeChat)」およびQQは現在、世界で最も広く使われているSNSアプリで、ウィーチャットは中国国内だけで10億人のアクティブユーザーがおり、海外でも1億から2億人が利用しています。
文章ではさらに、テンセントと中国当局の密接な関係について指摘し、ウィーチャットとQQは、ユーザーに対する中国当局の監視を助長していると述べています。たとえばウィーチャットの審査分野において、人工知能を絶えず改善し、写真や画像を識別して当局に不利なものを削除する機能を強化しています。過去1年の間、中国当局のユーザーに対する審査と監視は明らかに強化され、独立運営していた多くのSNSアカウントが削除されました。
香港立法会で情報科学技術分野を担当していた、単仲偕(シン・ジョング・カイ)元議員は、中国国内には安全な通信アプリが一つもないと示しました。テンセントは中国当局の許可を得て運営している以上、当局の方針と政策には全面的に協力せざるを得ない立場にあるといいます。
中国当局はまた、いわゆる「外国勢力が中国の社会安全を脅かす」として、外国のネットサービスを遮断しています。中国の元IT技術者、周曙光(しゅう・しょこう)さんは、中国共産党はウイーチャットなどのSNSを通して、ネット上の疆域を拡張させていると述べます。
中国の元IT技術者 周曙光氏
「中共はインターネットを通してカナダ、北米まで影響を及ぼし、行政管理の権限まで持っている。民衆の権益を守らない独裁政権によるこの種のネット上の疆域拡張は自由世界への威嚇である」
以前、中国当局によるウイグル人への監視を暴露したことのあるオランダのハッカー、ビクター・ギアーズ(Victor Gevers)は3月2日、テンセントの応用プログラムはネットカフェ利用客の数百万回に上るチャット内容や個人情報を、ユーザーのオンラインと同時に中国各地の警察当局に転送していると明かしました。
インターネットオブザーバーの古河(こ・か)さんは、経済のグローバル化に伴い、中国経済がある程度世界に影響を与えているため、海外でも多くの中国人がテンセントのアプリを利用していると示します。近年は、中国産アプリを利用する外国人ユーザーも増え続けています。一方、利用者の端末内の情報は、テンセントによって密かに中国当局に転送されるといいます。
インターネットオブザーバー 古河氏
「中共はこれらのチャットアプリを通じて世界中のユーザーの情報を掌握することができるが、これは深刻な危害をもたらす。つまり、この種の情報が引きも切らず中共当局の情報部門にに流れ込むということだ」
しかし西側諸国も、中共の海外ユーザーに対する政治的審査と監視に気がついています。ザ・ディプロマットによると、カナダのトロント大学の市民実験室は2016年に行なった研究で、海外ユーザーが中国国内のユーザーと行なったチャットが、特定キーワードの審査を受けていることを発見しました。
例を挙げると、カナダではウィーチャットの審査機構が香港の雨傘運動を讃えるニュースを削除し、ファーウェイのCFO孟晩舟が逮捕されたニュースが操作され、また中国共産党官僚の腐敗に関する報道が阻止されました。このほか、中国の警察当局はウィーチャットを利用して、海外のウイグル人に個人または活動家の詳細な情報を提供するよう求め、さらには監視員をウイグル人のウィーチャットグループに入れるよう要求しているとのことです。
テンセントと中国当局の協力関係が深まるにつれ、テンセントの従業員もユーザーを審査し、監視することができます。ユーザーの通信内容や個人データを当局に提供したことで、多くの罪のない人が逮捕され、さらには拷問を受けています。ザ・ディプロマットは、行動を起こして、国籍を問わず、テンセントの全てのユーザーの基本的な権利を護る時がきたと述べています。
インターネットオブザーバー 古河氏
「非常に邪悪なチャットアプリだ。ファーウェイ同様、制限やボイコットまたは使用禁止にすべきだ。西側チャットアプリのコピーと剽窃を基礎に成り上がったものだから、ファーウェイのように終わらせるすべきだ」
米国のテクノロジーメディアサイト「ギズモード(Gizmodo)も、テンセントは中国共産党当局のグレート・ファイアウォール(防火長城)の審査システムに加担しており、ウィーチャットとQQは最先端の監視および審査制度を備えていると報じました。
ザ・ディプロマットは、ウィーチャットは自由世界の厳しい審査と管理監督を受けるべきで、テンセントはその違法行為に対して責任を取るべきだと示しました。