中国社会科学院はこのほど発表した中国年金精算報告の中で、都市労働者の基本年金累計残高が2035年にはゼロになる可能性があることに言及しました。よってこのころには多くの人が年金を受け取れなくなる恐れがあります。この報告書に中国内外から大きな注目が集まっています。
中国社会科学院社会保障研究センターは4月10日に発表した『中国年金精算報告2019~2050』の中で、企業が負担する保険料率を賃金総額の16%と仮定すると、全国の都市部労働者の基本年金保険基金は2028年に赤字に転じ、2035年には累計残高がゼロになる可能性があると予測しています。
報告書は、2019年の残高総額を1062億9000万元(約1兆7601億1400万円)と予測し、残高総額は2022年までは短期的に増加するものの、2023年からは減少に転じ、2035年にはすべての残高が枯渇すると予測しています。
この残高予測は財政補助を考慮に入れて算出したものであることに注意が必要です。政府財政補助を考慮しない場合、残高は2019年には早くもマイナスに転じ、2050年にはマイナス16億7300万元(約277億円)に達すると予測されています。
米サウスカロライナ大学エイキン校ビジネススクールの謝田教授
「このことについて我々は何も不思議に感じていない。5年も10年も前に我々には赤字になることが分かっていた。赤字の原因はみなさん知っての通り、何の監督管理も受けていない政府は好きなように金を使うことができるからだ。これには本来好き勝手に私的流用してはならないはずの年金の支出超過も含んでいる」
2007年に起きた上海社会保障基金事件では、上海労働・社会保障局局長が会社役員と共謀して100億元(約1665億6000万円)を超える社会保障基金を私的流用し、逮捕・起訴されました。この事件は、中国の社会保障基金にからんだ汚職問題の一角にすぎません。
中国財政部の情報によると、2014年の時点で年金はすでに1563億元(約2兆5884億9000万円)の赤字となっており、2015年には赤字総額が3115億元(約5兆1587億6400万円)に達していたことが明らかになっています。
謝田教授は中国の年金制度に存在する二つの問題点を挙げています。一つは総額が不足していること、もう一つは構造性の問題が存在することです。これは強制的な一人っ子政策や、年金二重制度などと同様、妥当性を欠く政策を実施した政府の責任であると指摘しています。
社会科学院の報告書からはさらに、企業が負担する保険料率を賃金総額の16%とすると、2019年には納付者2人で退職者1人を養うことになり、さらに2050年には納付者1人が退職者1人を扶養しなければならなくなることが読み取れます。
中国メディアの第一財経日報が、新浪(シンラン)ウェイボーアカウントを通じて、「現在の年金累積残高が2035年には枯渇すると知ったら、年金プランをどうやって立てるか?」と問題提起したところ、6000件を超える意見が集まりました。あるネットユーザー(アカウント名「雲長_哼」)は「年金を不当に吊り上げ、湯水のごとく使っている。退職者の多くは、今働いて社会を支えている人たちの給料よりも高い年金を支給されている!どう思う?赤字にならない方がおかしい」
米国在住の政治経済アナリスト、秦鵬(しん・ほう)さんは、「現在の中国の出生率は、進む高齢化速度に追いついていない。中国の高齢化社会は間もなく現実になる。そうなったら結果はさらに深刻だ。これは制度上の問題だ」と指摘しています。
在米政治経済アナリスト 秦鵬氏
「二つ目の制度上の問題だが、年金の納付と使用には二重制度が実施されている。つまり、公務員は保険料を納付せずに高額の年金を受け取っている。さらに(年金とは別に支給される)退職者給与が毎回増額されるのであれば、(支給額が)一般の退職者をはるかに上回る。今になっても二重制度は解決されていない」
秦鵬さんは、中国は公務員本位体制を敷いているため、この問題を本当に解決できる人は皆無だと指摘し、能力もないのに高い地位についた人間が管理を混乱させ、基金の私的流用が極めて深刻になったうえ、投資効率も非常に悪くなっているとして、これらすべてが中国の年金問題をさらに悪化させていると述べています。
事実、中国の年金問題は、膨大な数の農民をまったく組み込まずに生じたものです。今年3月までに中国政府が農民に対して講じた年金対策とは、農村の村幹部、教員及び退役軍人だけを対象に、それぞれに応じた退職金を支給するというもので、中国人の絶対的多数を占める農民には、基本的に退職金制度は適用されません。
謝田氏
「これは中国政府が農民について、世界に向けて『彼らは人間ではない』と宣言しているに等しい。なぜなら中国政府は、国が国民に提供する保険の対象から農民を排除しているからだ。これが中国共産党のやったことだ」
謝田教授は「西側諸国の年金保険制度は全国民を対象としたもので、農民を含むすべての人が加入している。しかし中国当局の実施している保険は、都市部住民しかカバーしていない。非常に不公平だ」と指摘しています。
NTD Japan