米中貿易戦争の拡大に伴い、中国は米国へのレアアース(希土類)の輸出制限をちらつかせ、レアアースの輸出管理の厳格化とレアアース精製技術の漏洩防止を叫んでいますが、専門家は、レアアースを切り札にしても勝率は低く、逆に市場に占めるシェアを失う可能性があると分析しています。
中国の官製メディア「新華社通信」は、中国国家発展改革委員会が6月5日に行った「レアアース業界企業テーブルトーク」の中で、会議参加企業からレアアース製品の輸出規制を強化し、業界の整頓力を向上させ、核心技術の外部流出を厳禁とするべきだとの声があがったと報じました。
この件について、中国政府は貿易戦争で米国を牽制するため、レアアースの輸出規制を切り札として使用するつもりだとの憶測が広がっています。
これより前、習近平国家主席は5月下旬にレアアース産業視察のため、江西省を訪れましたが、江沢民派の第19期中央政治局の王滬寧(おう・こねい)常務委員も中国当局の文化宣伝部門をコントロールして、レアアース世論戦を巻き起こしています。
しかし米国在住の時事評論家、鄭浩昌(てい・こうしょう)さんは、北京がレアアース輸出規制を切り札にしたところで勝算は低く、逆に自分で自分の首を絞めることになる可能性が高いと考えています。
時事評論家 鄭浩昌氏
「理由は2つ。1つは中国のレアアースは今、生産能力過剰に陥っているうえ、密輸が横行しているため、中国政府が価格を思うように操作できくなっている点だ。もう1つは米国は9年前の日中レアアース戦争の時に対応マニュアルを入手しているという点だ」
鄭さんは「9年前、レアアースをほとんど持たない日本がレアアース戦争に勝利し、中国は完敗した。レアアース採掘場、科学技術、経済力のいずれも日本を上回っている米国が中国に勝てないはずはない」と語っています。
米国在住の時事評論家、田園博士も「貿易戦争が激化してから中国政府は下手な手を次々と打っている。彼らはレアアース戦を挑めば米国経済に打撃を与えてトランプ大統領の再選を阻止できると思っているようだが、その予想は間違っている」と指摘しています。
時事評論家 田園博士
「個人的にはこのやり方は完全に馬鹿げていると思っている。中共自身の問題を解決できないだけでなく、中国が今直面している貿易戦争における苦境も解決できないうえ、中国国内に吹き荒れる失業の嵐を激化させ、レアアース市場における中国のシェアを失わせることにもなるからだ」
レアアース(希土類)とはスカンジウム、イットリウム、ランタンなど17種の化学元素の総称で、電子製品や軍用エンジン、人工衛星などのハイテク業界に広く使用され、大きな戦略的価値を備えています。
米国地質調査所のデータによると、中国のレアアース埋蔵量は世界の埋蔵量の1/3にすぎない一方で、米国の輸入鉱物における中国産レアアースの割合は80%を占めています。ペンタゴンが購入する航空機や暗視装置の製造にもレアアースが不可欠です。
中国政府が米国に対しレアアースの輸出規制をちらつかせると米国側も直ちに反応し、米商務省は6月4日に発表した報告書の中で、国内のレアアース埋蔵量を早急に調査し、関連の地下資源調査許可証の発行を増やすよう提案しました。
報告書には、米国は鉱物資源に恵まれており、2017年には国内の鉱脈から合計752億ドル(約8兆1690億円)相当の鉱物資源が生産され、2兆9000億ドル(約314兆9700億円)相当の製品が製造されたと記されています。
田園博士は「今のところレアアース精錬会社は世界でも中国にしかない。トランプ大統領は2017年の時点で商務省に対し、レアアースを含む重要な資源に対する調査と準備を指示している」と語っています。
時事評論家 田園博士
「中国政府はレアアースを採掘するために誰の安全も考慮せず、周囲の牧畜業にも配慮しない。例えば内モンゴルの放牧業だが、レアアース採掘企業から半径数百キロ以内の草原はほぼ完全に死滅してしまった。これが他国だと、国や民衆からの圧力によって早々に閉鎖されているはずだが、中国のレアアースは今も大規模に生産され、毎年数万トンものレアアースが産出されている」
田園博士は、他国は中国から安価なレアアースを購入できるため、環境を破壊する採掘事業への投資は自然と控えられていたが、これはその国にレアアース採掘能力がないという意味ではなく、レアアースの精錬分野において、米国に技術的障壁は存在しないと語っています。
時事評論家 田園博士
「輸出禁止措置を講じることで、中国政府は自国の利益を損なうことになる。それだけでなく、短期間のうちにレアアースの市場価格を押し上げる可能性がある。最初は西側諸国のレアアース採掘で、これが拡大傾向を示す可能性がある。豪州のレアアース資源も大量に採掘されていることはよく知られている」
田園博士は「カリフォルニア州には数年前からレアアース採掘会社があるが、採掘された鉱石は中国へ運ばれてから精錬されていた。中国がレアアースの取引を禁止した場合、諸外国は関連企業に巨額の投資を行うだろう。よって『レアアース不足によって他国の科学技術の発展が停滞する』という中国政府の望むシナリオは実現できない」と分析しています。