米中貿易戦争が激化する中、中国政府は米自動車大手フォード・モーターの米中合弁会社、長安フォードに巨額の罰金を科しました。専門家は、今回の件は米国への報復であるとともに、国内に向けて貿易戦争では譲歩しないとの意思表示を行ったと考えています。しかし一方でフォードが中国から撤退せざるを得なくなり、トランプ大統領による米国企業の中国撤退を後押しする可能性があるほか、中国国内の失業者数が増加して中国経済の衰退を加速する恐れもあります。
中国当局は6月5日、メーカーからディーラーへの製品再販価格に制限を加える、いわゆる「縦方向の独占」を行ったとして、米中合資会社「長安フォード自動車」に対し、1億6280万元(約25億5000万円)の罰金の支払いを命じました。
中国メディアは、長安フォードは重慶エリアで2013年から「価格表」の設定や「価格自律協議」の締結、及び下流フランチャイザーの期間最低価格の制限、ネット最低オファーなどの方式によって、車両再販価格を限定したと報じています。
中国国家市場監督管理総局は、長安フォードの前年度の重慶エリアにおける販売額の4%に相当する1億6280万元の罰金の支払いを命じました。
台湾中華経済研究院の呉恵林(ご・けいりん)特別研究員は、中国ではそもそも市場経済が行われておらず、独占があるとかないといった問題は存在しないと指摘し、中国の今回の措置は明らかに米国に対する報復行為だと述べています。
台湾中華経済研究院の呉恵林特別研究員
「このことで、他国に対し、中国には反撃する力があることを証明したいのだ。最も重要な点は、中国国内の人々に対し、『中国は非常に強大で、米国に対抗する力を持っている』という自信を与えることだ」
長安フォードは2001年に米国フォード・モータが中国市場に参入して設立された合資企業で、米国フォードが株式の50%を所有し、残りの50%を中国国営企業の長安自動車集団が所有しています。同社の従業員数は約25000人で、中国国内に7つの大型工場を有しています。
長安フォードは創業翌年に約100万台の販売実績を残しましたが、2018年の年間販売台数は37万台に落ち込み、前年比54.4% 減となりました。今年の第一四半期の販売台数も昨年同期比で71.79%減少しており、今回の処罰が明らかになってから長安自動車の株は一時7%以上暴落しました。
台湾中華経済研究院の呉恵林特別研究員
「フォード自動車がダメージを負った場合、当然ながら雇用に影響が出る。もしくは中国側が米国の株式を排除して、中国の国営事業にする可能性がある。しかしそうなった場合、今のような高い技術をその後も継続することはできないだろう。技術は人が担うものなので、製品は価格にしろ、品質にしろ、前と同じようにはいかなくなる。いずれにしても問題だ」
呉恵林氏は、中国当局がフォードに厳罰を科して一部の中国人の民族感情をあおろうとしても、実際には米国側を助けることになるだろうと述べています。
台湾中華経済研究院の呉恵林特別研究員
「米国は今、中国に進出した企業を撤退させようと考えている。そんな中、中国がこのような行動に出たら、米国にとっては都合がいい。外資企業の撤退を加速することになるからだ。米国企業だろうが他国の企業だろうが、こうした状況が加速するだろう」
中国政府はさらに、いわゆる「信頼できない企業リスト」を策定して米物流サービス大手のフェデックス(FedEx)に対する調査手続きを開始して、米国に報復しようとしています。
台湾中華経済研究院の呉恵林特別研究員
「おかしな話だ。トランプ大統領はもともと米国資本を中国から撤退させようと考えていた。すると中国政府はこともあろうにその米国の動きに呼応するかのように、米国資本や米国企業を中国から追い出そうとしている。これが中国にとって何の得になるのか、私にはさっぱりわからない。民族主義を高揚させ、一部の中国人は『我々はすごい。米国を追い出してやったぞ』とは言うだろうが」
中国の金融アナリスト、任中道(にん・ちゅうどう)さんは、実はここ数年で中国を離れたのは外資系企業だけでなく、一部の民営企業も一緒に移転したと述べています。
金融アナリスト 任中道氏
「中国の一部民営企業も、外資系企業のサプライチェーンや生産ラインの中国撤退とともに中国を離れていく。しかし民営企業は中国経済の柱であるため、民営企業の大規模移転は経済に大きな打撃を与える」
呉恵林氏は、中国当局は長安フォードに厳罰を与えれば、フォードは中国で利益を上げることができなくなると考えているが、フォードは中国で中国の労働力を利用して製造のみを行い、製品のほとんどは諸外国に販売している。中国の雇用を増やし、他の国から儲けていることを当局は理解していないと指摘します。
また、フォードは他の国に生産拠点を移転することも可能なので、そうなった場合、衰退が続く中国経済にさらなる打撃を与えることになると語っています。