大富豪として知られる長江実業グループの李嘉誠(り・かせい)氏、アリババのジャック・マー氏、テンセントの馬化騰(ま・かとう)氏が相次いで辞任したあと、中国官製メディアは杭州市政府が行政部門の幹部100人を選出して第一期100社重点企業に送り込むと報じました。この措置は中国当局が民間企業を略奪して当局の財布を満たし、官僚のATMにするつもりなのではないかとの見方があります。
中国官製メディアは9月20日、浙江省杭州市政府が行政部門の幹部100人を選出してアリババ、浙江吉利控股集団(ジーリーホールディンググループ)、飲料メーカーの杭州娃哈哈合資公司などをはじめとする第一期100社重点企業に送り込むと報じました。目的は企業の各種政府関連業務に協力し、情報の相互コミュニケーションの推進や政策に関する解決策、プロジェクトの実施と推進などにおける全方位的な保障を行うためとしています。
中国の独立ジャーナリスト、黄金秋氏
「政府が官僚を企業に派遣すると言うが、その給料を政府と企業のどちらが負担するのかが一つ目の問題だ。二つ目として、企業への官僚の派遣は企業の問題解決にメリットがあるというが、これは政府が、この100社以外の企業の面倒を見る気がないということを意味しているのか。デメリットとしては、政府が官僚を企業に派遣すると、その人物は政府の代表となり、企業はその指示に従わなければならなくなるし、従わなければ政府に報告して難癖をつけるだろう。これは民間企業に対する一種の脅迫ではないか。大幅な後退だと言うべきだ」
中国の独立ジャーナリスト、黄金秋(こう・きんしゅう)さんはさらに、「派遣された政府官僚に企業から給料が支払われるのであれば、企業負担が増すことに間違いはないし、政府が負担するのなら税金を濫用することになる。これは企業のためだと政府がどのようにアピールしても、市場経済の大幅な後退である」と指摘しています。
中国の独立ジャーナリスト、黄金秋氏
「中国経済に与える打撃も、外資系への打撃も、その他の民間企業への打撃も非常に大きい。官僚が送り込まれる民間企業への打撃も非常に大きなものになるし、民間企業が独立経営を行うための主権が侵され、企業の商業機密や技術機密が侵される可能性もある」
米サウスカロライナ大学エイケン校の謝田教授
「現在、中央組織部の人間と経済情報化部の人間を派遣して状況を詳細に把握し、企業の株式の分配や収益の状況、市場、そして他の重要なことについて仔細に尋ねているのは明らかだ。税制面や政府との関係の改善をサポートするというのは見せかけの話で、次の段階で正式に収用されて再編成される。没取の際は、私営企業が喜んで自社を国家に捧げる姿が中国政府によってでっち上げられるのを見ることになるだろう。なぜなら企業はそれが逃れられないことだと分かっているし、そうしなければ自分たちの身の安全も保証できないと知っているからだ」
実際に、中国政府は2012年に党組織を民間企業に送り込んでおり、昨年はある学者が「私有経済は手仕舞いすべき」との意見を提起したため、中国の民間企業は戦々恐々としています。
中国のeコマース最大手アリババのCEOジャック・マー氏の正式な引退表明に続き、不動産大手の恒大集団の会長、許家印(きょ・かいん)氏が当局に出国を止められたとの情報が流れ、さらにテンセントCEOの馬化騰(ま・かとう)氏も同社の法定代表者から退きました。その前には香港の大富豪として知られる李嘉誠氏も中国官製メディアから攻撃されており、インターネットにはジャック・マー氏が毒を盛られ殺されそうになったという動画が流れました。
米国サウスカロライナ大学エイキン校ビジネススクールの謝田教授
「中国政府は今、苦境から抜け出せないまま、政治・経済面においても困難に直面している。よって我々は新たな『富裕者を殺して共産党を助ける』状況が始まったのをまたもや目の当たりにしている」
かつて富裕者を殺して財産を奪ったいわゆる公私合営が、いま中国の大地で再演されようとしているとの指摘もあります。
黄金秋氏は、公私合営とは実際には政府官僚のためのATMだと指摘しています。
中国の独立ジャーナリスト、黄金秋氏
「公私合営というが、何が『公』だというのか。本物の『公』とは上場の公有化で、誰でも株の売買ができるようになることを公有化という。あれは『公』などではなく、企業を官僚の財布に入れて政府の帽子をかぶせてから、こうした権力者のATMにすることだ。庶民とは何の関係もないて」
米サウスカロライナ大学エイケン校の謝田教授は「共産党統治下で発展した民間企業の一部は国外から技術や先進的な経営管理方式を真似ると、党の権力者の保護の下で強大化した。これらの企業は中共のためにいわゆる中国の繁栄を作り出し、さらには民衆への監視を手助けしているが、最終的には政府権力者から搾取されている。実に悲しいことだ」と指摘しています。
米国在住の政治学専門家で米国のシンクタンク、ハドソン研究所の客員研究員でもある韓連潮(かん・れんちょう)氏は、中国の民間企業は今、存亡の危機に直面しており、いまは団結して自力救済するときであると考えています。