長江の川底が露出 水不足は人災か(下)

長江のあちこちで水位が下がり、川底が姿を現していることが注目を浴びています。水利専門家の王維洛氏は、三峡ダムによって長江の生態系が破壊されたことが、水位が下がった原因だと指摘しています。自然のメカニズムが三峡ダムによって破壊されたあとに、何が起こるのでしょうか。
中国政府は1993年、エネルギー問題を解決するため、専門家の反対を無視して長江三峡ダムの建設に着手しました。

上空から見ると、三峡ダムはまるで大きな刀で長江の流れを断ち切ったかのようです。

ドイツ在住の水利専門家 王維洛氏
「長江の水量はもともと、長江支流と河川付近の湖とが互いに協力しあって調節されていた。湖北省は『千の湖の省』と呼ばれており、長江の水が多い時期にはこれらの湖を潤し、長江の水が少ない時には湖の水が長江に流れ、みなで『友人関係』を築いていた」

しかし今、三峡ダムによってこのバランスは破壊され、渇水期に川底や湖底が露出するようになりました。

ドイツ在住の水利専門家 王維洛氏
「私が確認した現在の水位の状況に基づくと、長江の水位が下がってしまったため、水上輸送は大きな困難に直面しているはずだ。水位が低下したため、船から荷物を降ろして荷重を減らし、喫水があまり大きくならないようにしなければならない」

しかし中国官製メディアが三峡ダムに起因する問題を取り上げることはなく、逆に好ましいニュースとして報じることもあります。

ドイツ在住の水利専門家 王維洛氏
「例えば武漢で長江の川底が見えた話だ。これはよいニュースだろうか?今、中州の部分がどんどん大きくなっている。洪水が来たとき、長江自身の川床の貯水能力が増えるどころか、逆に減ることが想像できるだろう」

水利専門家、王維洛氏は、三峡ダムと上流の28の大型ダムは、水をせき止めているだけでなく、ダム湖水面から蒸発する分と、地下からの漏水によっても水を喪失させているため、渇水期に長江中下流域で深刻な水不足が生じると分析しています。

ドイツ在住の水利専門家 王維洛氏
「もしこの状態が続くのであれば、武漢の水位が下がり、その下流に位置する九江、安慶、南京、上海の水位もそれに対応して下がる。いずれの水位も下がった後にある現象、つまり長江河口の海水が逆流するという問題が生じる。もし海水が逆流したら、これら都市部の人々の生活用水や工業用水に顕著に影響する」

王維洛氏は、三峡ダムから流れる水は土砂を含んでいないため、土砂が上海の海岸線を後退させることはないと語っています。

ドイツ在住の水利専門家 王維洛氏
「米国の研究者は、2050年ごろには長江デルタはすべて海面下に沈むと予測している。もし土砂がなくなったとしたら、土砂がどんどん減って海面が後退した場合、上海の水没はもっと早く現実になり得る」

長江流域の生態環境の破壊は、人間だけでなく他の生物にも影響しています。

ドイツ在住の水利専門家 王維洛氏
「例えば鄱陽湖は、アジア最大の渡り鳥の生息地だ。それが草原に変わってしまい、渡り鳥が生活する場がなくなった。草原になった翌年の4~5月には、水位がまた上昇する。するとこれらの植物や根が腐敗してメタンガスを発生させる。メタンガスの排出は二酸化炭素の排出よりも、さらにたちが悪い」

中国の伝統文化は、万物には魂があり、天地と人間は互いに相通じていると説いています。またある先人は、川の流れは人の体のようなもので、腰の部分で断ち切られると、ゆっくりと死に向かうと伝えています。

ドイツ在住の水利専門家 王維洛氏
「長江を歴史的に見ると、そこでは湖と水が一面に広がっていた。それは非常に広くゆったりとした一つの流れだったが、今目の前にあるのは見渡す限りの砂の山だ。長江はいまにも干上がりそうなありさまだ。まるで病人のようで、その病は悪化の一途をたどっている」

王維洛氏は、三峡ダムが稼働し始めてから始めの十年こそ周囲に与える影響が比較的深刻だが、その後は徐々に好転すると言われていたが、三峡ダムは実際にはこの過程をたどらず、負のサイクルが加速して、問題は深刻化する一方だと指摘しています。

ドイツ在住の水利専門家 王維洛氏
「唯一の選択肢は三峡ダムを解体することだ。もしくはそれを放棄して、ダムを自然の流れに任せることだ」

しかし三峡ダムは中共の利益集団の『打ち出の小づち』であり、水位の低下や水の過不足、生態環境の悪化などは彼らの金儲けに何の影響も与えないため、中国当局が庶民の長期的な利益を守るために三峡ダムを破壊するなどありえないと王維洛氏は指摘しています。

 
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