武漢の都市封鎖から一か月以上過ぎた現在、新型コロナウイルス感染症は「転換期」を迎えたのでしょうか。また、各地で進む再操業は安全なのか、庶民が実施できる効果的な自衛手段は何かといった疑問について、スイスのバイオテクノロジー企業SunRegen Healthcare AGの首席科学者で、北京大学感染症学博士でもあり、17年にわたりウイルス研究を行ってきた董宇紅氏にお話を伺いました。
中国の感染症予防専門家、鐘南山(しょう・なんざん)氏は1月末に、2月8日ごろまでには新型コロナウイルス感染症に「転換期」が訪れるとみられ、爆発的な感染増加はもう起こらないだろうとの見方を示しました。しかし2月に入ると「転換期」はまだ訪れていないと発言を撤回しました。その後2月中旬には、全国の発症件数は2月中旬から下旬にピークを迎えるだろうが、このピークは「転換期」に達したことを意味するものではないと改めて発表しました。
一向に訪れる様子のない「転換期」を民衆は心待ちにしていますが、欧州在住のウイルス専門家、董宇紅博士は「転換期」の判断は難しいとの見方を示しました。判断するにはまず公衆衛生制度が、透明性の高い真実の感染データを必要としているほか、科学的根拠に基づき、事実に沿って真実を判断したうえで政策を制定する必要があります。しかし、中共政府が現在発表している感染データには多くの問題があり、特にそれらが海外の感染症専門家による予測データとかけ離れているため、信じることはできないと指摘しています。
次に董宇紅博士は、診断が確定した患者以外にも大量の病原体保有者が存在する点について指摘しています。
ウイルス研究の専門家、董宇紅博士
「たとえ診断確定者が100%報告されたとしても、ほかにたくさんの保菌者がいる。この点を考えると、「転換期」をどうやって評価できるというのか。易感染者に対する有効なワクチンがない限り、大量の保菌者が存在するだけで、爆発的な感染がいつでも新たに生じる可能性がある」
医学雑誌ランセットは2月13日、北京301医院第三医学センター呼吸器内科副主任の常徳(じょうとく)医師らの論文を掲載しました。これには症状のない感染者も強力な感染力を持っており、回復期にある患者も大量のウイルスを広めている可能性があると記されています。
ウイルス研究の専門家、董宇紅博士
「これは次のことを意味している。この『転換期』とはこの感染症に対する効果的な制御が実現されているかどうかだ。我々は楽観的にならず、より手堅い政策を制定すべきだ。診断確定された症例だけをよりどころに、新たな発症例が減少しているという点だけを見て、感染状況が「転換期」に来たと楽観的にとらえるべきでない。私個人としては、少なくとも新たな症例がゼロになってから、さらに一か月前後様子を見る必要があると考えている」
「転換期」はまだ訪れていませんが、「21データニュース実験室」が2月25日に取りまとめた中国各省の政府データに基づくと、浙江省の一定規模以上の工業企業の再稼働率は90%で、江西省、山東省、江蘇省、遼寧省、広東省などでも80%を超えています。
董宇紅博士は、中国企業は今「準備なしの闘い」に挑もうとしていると憂慮しています。
ウイルス研究の専門家、董宇紅博士
「我々はまだウイルスのことをよく理解していないうえ、ワクチンもなく、効果的な治療薬もない。戦う準備ができていないと言ってよい。世界中に多くの易感染者がおり、中国の大部分の易感染者群はいずれも、保護されていない危険な状態にある。特に無症状の感染者や回復期の患者は、比較的強い感染力があり、大量のウイルスをこの易感染者に感染させる可能性がある。そうした時期に操業再開すると、この感染症を再度、より深刻な形で爆発させることになるのではないか」
こうした状態で、庶民はどうやって自分の身を守ればよいのでしょうか。董宇紅博士は最善の予防方法は外出せず、人との接触を避け、自身の免疫力を高める努力をすることだと語っています。
ウイルス研究の専門家、董宇紅博士
「中医学には『正気を養えば、邪気は簡単には進入せず病気にもなりにくい』という言葉がある。中医学でいう正気とは西洋医学でいう、人間に備わっている各種免疫力を指す。一つ目は自然の免疫力、二つ目は特異性免疫力だ。現在、大衆が使用できるワクチンも、効果的な外的保護措置も存在しない。ならば我々は自身の免疫力を高めることから努力すべきだ。中国には博大で奥深い伝統文化、五千年続く優れた伝統医学がある。我々はそこから知恵を掘り起こすことができる」
董宇紅博士は、中国の全ての善良な庶民が、今回の災いを無事乗り切ることができるよう心から祈っていると語っています。