情報統制の厳しい中国で、新型肺炎の真相を求めて武漢入りした人々がいましたが、次々当局に連行されています。最近の事例では、中央テレビ(CCTV)の元司会者の李澤華(り・たくか)さんが2月26日、警察に拘束されました。
市民ジャーナリスト 李澤華さん
「私は李澤華です。今、武漢にいます」
今年25歳の李澤華さんは中国の中央テレビ7チャンネルの番組司会者を務めていました。辞職後にセルフメディアを立ち上げ、2月中旬に武漢入りしました。
市民ジャーナリスト 李澤華さん
「主流メディアに勤める友人が教えてくれたが、今 新型肺炎に関するネガティブ情報は、全て中央テレビが押さえ統一して報道する。地方メディアが報道していいのは、患者が回復したなどの朗報のみだ」
当局の情報統制が厳しいなか、李さんは1月19日に開催された「4万世帯の大宴会」が原因で多くの住民が新型肺炎に感染した百歩亭団地を訪れ、真相究明を図りました。
警備員
「あちこち何を撮っている?」
李澤華さん
「撮るのは私の自由だ」
百歩亭団地の住民
「取材しに来た記者かい?私達の団地はほったらかしだ。消毒をする人もいないし、体温を測りに来る人も統計をとる人もいない」
先日、武漢の火葬場の遺体回収者の求人広告がネット上で広く伝わり、波紋が広がりました。真相究明のため、李さんは武漢の青山(せいざん)火葬場にも足を運びました。
火葬場関係者らしき男性
「遺体運びは500元(約7700円)からで、1体目は500元、2体目はプラス200元(約3000円)、3体目はさらにプラス200元だ」
李澤華さん
「上限はないのか?」
火葬場関係者らしき男性
「10体運んでも、100体運んでも上限はない」
李さんが火葬場を離れたのは深夜11時過ぎですが、その時も焼却炉はまだ稼働していたといいます。
2月26日、李さんは今回の新型コロナウイルスの発生源ではないかとも疑われている武漢ウイルス研究所に足を運びました。しかし、ここで国家安全局の関係者に目をつけられ、追跡されることになります。
李澤華さん
「皆さん、今走行中だが、突然誰かわからないが、国家安全局の人だと思う。パトカーではない車で私を追跡してきている。今ライブ配信ができないので、動画を撮る。今アップロードする。私は今武漢にいる。今猛スピードで走っている。彼らが追跡してきている。彼らは私を隔離しようとするだろう。助けてください!」
宿泊先も特定され、当日夜、李さんは当局の警察関係者とドア越しに数時間も対峙しました。ドアを開ける直前、Youtubeのライブ配信で、中国の若者に目覚めるよう呼びかけました。その後李さんは、私服警官に連れていかれました。
李澤華さん
「もっと多くの若者が立ち上がってほしい。理想主義はあの年の春から夏にかけて消えた(1989年天安門事件)。座り込みはもう役に立たなくなった。今の若者は過去に何が起きたのかすら、わかっていない」
この前には、武漢市民の方斌さんと市民ジャーナリストの陳秋実さんが、武漢の病院の状況などをカメラに納めて世界に発信したため、警察に秘密裏に逮捕され、いまだ安否不明のままです。
天安門事件元学生リーダー 周鋒鎖さん
「暴政が国民の声を許さないなか、一歩一歩、たとえ小さな一歩でも立ち上がりたいという思いは尊敬に値する。火の中に飛び込む蛾のようだが、悲壮感がある。抵抗し自力救済しようとしている。正常な国家では当たり前だが、中国にはこれらが欠けている」
中国で数少ない、勇気あるメディアも絶えず締め付けられています。2月26日、中国メディア「財新網」は独自の調査報告を掲載しました。記事によると、昨年12月末までに、武漢では少なくとも9人の原因不明の肺炎患者に対するサンプリング検査を行い、「SARSに似たコロナウイルス」との検査結果が出ていました。しかし、湖北省衛生健康委員会は1月1日、採集したサンプルを廃棄し、外部に情報を漏らさないよう求めたといいます。この報道は即時に当局により削除されました。
天安門事件元学生リーダー 周鋒鎖さん
「武漢が直面してる疫病は、ほとんどが人災だ。李文亮医師のように声を発したくても、口封じされ、肝心な(防疫)時期を逃してしまった。言論の自由もなければ、命の保証もできない。もっと多くの人が立ち上がって声を上げてこそ、この種の災難の再発を防ぐことができる」