連日の大雨によって中国南部の各地で洪水が発生し、三峡ダムの決壊を危ぶむ声が挙がっています。6月17日にダム上流の四川省丹巴県で洪水と山崩れが発生した後、中国の専門家は下流の住民に避難を呼びかけました。一方、三峡ダム専門家の王維洛(おう・いらく)氏は、「どこにも逃げ場はない。唯一残された道はダムを解体することだ」と発言しています。
中国南部では6月上旬から大雨が続き、24の省と区で豪雨により852万人が被害を受け、各地で浸水と洪水が発生しています。6月17日早朝、三峡ダム上流の四川省甘孜(カンゼ)丹巴県で発電所が押し流され、山崩れも発生したことで、安全性が疑問視されている三峡ダムが再度決壊の危険性に直面しています。
経済学者の「財経冷眼」はツイッターに「三峡ダム上流の四川省と重慶市で洪水が起こり、小規模ダムが決壊し、三峡ダムが危険にさらされている!」と投稿しました。
四川省丹巴県のせき止め湖が決壊した後の様子を撮影した動画によると、激しい濁流が流れ去った後、多くの村落が流されてしまったことがうかがえます。山崩れもまた、多くの村を呑み込みました。
中国メディアの新京報は、四川省甘孜丹巴県のせき止め湖が決壊して洪水が下流を襲い、一部の村の家屋や発電所が浸水や倒壊などの被害に見舞われ、現時点で2万人以上が避難していると報じています。
四川省巴中市(はちゅう-し)では1億4000万元を投じて建設中だった橋が一瞬で流され、濁流にのみ込まれました。
三峡ダム問題の研究者でドイツ在住の水利専門家、王維洛氏は、せき止め湖は山から落ちてくる大きな岩や土砂で形成された自然のダムで、洪水を堰き止めていると説明しています。
ドイツ在住の水利専門家、王維洛氏
「堰き止めによってダムの高さはどんどん高くなって、その後このダムにゆっくりと自然に水漏れが発生し、漏れがどんどん大きくなってダムを崩壊させた。その後決壊による洪水が発生した。そのように発生した洪水の衝撃力、破壊力は、自然の洪水の数十倍だ」
王維洛氏は、せき止め湖が決壊した場合の破壊力は、津波のように前に向かって進むため、どこに広がっても河川近くの家屋が瞬時に倒壊すると説明しています。四川省が1億4000万元を投じて建設中だった橋も流されましたが、これは橋梁建設部門の洪水対策が不完全だったためです。
ドイツ在住の水利専門家、王維洛氏
「洪水が来た時、流されてきた丸太や樹木などのゴミがこの建設中の橋の橋脚や柵などに引っかかって、そこがダムのような状態になってしまった。その後、あとから来た水で水面が上昇し、橋が押し流された」
中国建築科学研究院の博士課程指導教官の黄小坤(こう・しょうこん)氏は6月18日、一連の洪水災害に対し、微信(ウィチャット)の友人グループチャットで「宣昌より下流は逃げろ。最後にもう一度言う」と警告しました。
しかし王維洛氏は、三峡ダムの下流域には5億人が暮らしておりお、逃げるところなどないと指摘しています。
ドイツ在住の水利専門家、王維洛氏
「三峡ダムの危険性は常に存在していた。決壊問題は常に存在していた。宣昌より下流の住民は逃げろと言っても、下流とは宣昌から上海までだが、どこに逃げればいいのだ。外国のビザやパスポートを持っていたところで今は出国できない。どこにも逃げ場はない」
王維洛氏は「中国には10万近くの貯水池があり、どの地方にもあるが、4割以上は安全ではない。これらの放水や決壊は三峡ダムに影響する。貯水池が近いほど危険性も高まる。どこか逃げるところがあるだろうか?」と指摘しています。
6月11日に中共国務院新聞弁公室が開いた水害対策状況説明会で、水利部高官は今年の水害対策状況は非常に厳しいとして、全住民に対し洪水対策の準備を怠らないよう注意を促しました。また、現時点で148の河川で警戒水位を上回る洪水が発生しているうえ、中国の10万近くある貯水池の一部に問題があり、貯水・災害防止機能を発揮できないとも述べました。水利部の今年の重点業務は「ダム事故」防止でした。
王維洛氏は、三峡ダム下流よりも上流のほうが危険だと警告しています。中共政府は上流住民の移住はすでに完了したと発表していますが、新たに建設された都市の安全性は低く、ひとたび大洪水に見舞われたらそれらすべてが水に呑まれると指摘しています。
ドイツ在住の水利専門家、王維洛氏
「驚くべきことだ。逃げるのではなく解決策を探るべきだ。このダムを取り壊すのだ。どこにも逃げるところはない。長江中下流域の4億人、5億人にどこに逃げろと?逃げ場などない!」
王維洛氏は、「逃げるよりもダムを完全に取り壊す方がよい。一人につきブロック一つを取り除けば、ダムはなくなる」と指摘しています。
王維洛氏は昨年の段階で「三峡ダムの解体は早ければ早いほどよい。解体は簡単だ。水門をすべて開けばよいのだから」と注意を促していました。しかし中共政府は三峡ダム建設の業績を守るため、耳を貸しませんでした。