米国政府は1月12日に機密文書『インド・太平洋における米国の戦略的枠組み』を公開しました。10ページからなるこの文書には、中国を主な脅威として米国、日本、インド、オーストラリアが連携し、台湾を含む第一列島線(九州から沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島を結ぶライン)を共同で守り中共軍の拡張を阻止するために講じられた、インド・太平洋地域に対する米国の過去3年間の戦略が詳細に記されています。
1月12日、ホワイトハウスは機密文書『インド・太平洋における米国の戦略的枠組み』を公開しました。この文書は2018年2月に承認・施行され、過去3年間にわたり、インド太平洋地域における米国の国家安全保障に対する包括的な指針とされてきました。
オブライエン大統領補佐官は、この文書の機密指定が解除されたことによって、米国の国民や同盟国などに、米国がインド太平洋地域の自由と開放に長年尽力してきており、今後も続けていくことを理解してもらえるだろうと述べています。
オブライエン大統領補佐官は声明の中で、北京政府はインド太平洋諸国に対する圧力をますます強めており、彼らに中共の「運命共同体」になるよう要求しているとも指摘しています。
この10ページからなるインド太平洋戦略機密文書には、中共を主な安全保障上の脅威であると位置づけており、その次が北朝鮮だと記されています。また米国はオーストラリア、インド、日本と戦略的に連携して、米国を中心とする四つの国からなる安全保障の枠組みを構築すると強調されています。
時事評論家の唐靖遠氏
「戦略目標から見ると、彼らはレーガン大統領が当時行った6つの保障に似ている。彼はインド太平洋地域における米国の長期的な地理戦略の枠組みを構築した。恐らく一部の狭い地域では調整や変更があるだろうが、ここでの主体は、中共全体をアジア太平洋地域全体の主な脅威であり最大の敵だと位置づけていることだ。それがぶれることはない」
この文書は本来、30年後に機密解除されるはずでしたが、予定を繰り上げてバイデン氏の大統領就任前に発表されました。それには複数の理由があるはずだとの指摘もあります。
時事評論家の唐靖遠氏
「彼らがこれら(インド太平洋地域)の国の国益を奪って、中共と取引を行うのを防止するためだ。当然ながら一番重要なのが台湾だ。台湾が売り渡されるのを防ぐ必要がある。そのほか、この文書はすでに3年前から実行されていることが示されている。つまりトランプ政権が3年も前からアジア太平洋地域におけるNATOの小型バージョンを計画していたことが示されている。この戦略的枠組みはアジア太平洋のNATO小型バージョンの枠組みだ」
オーストラリア国立大学国家安全保障カレッジ学長のローリー・メドカーフ(Rory Medcalf)氏は13日に、「これは非常に重要な文書だ。数十年も前倒しして公表されるなど普通ではない」「政府関係者は、中国の力を管理する分野を含めて、米国とインド太平洋地域の関係にどのような継続性があるのかを見たいと思っている」と述べています。
文書では、米国と台湾、そして南シナ海諸国とのパートナーシップ、そして同盟国の日本や韓国との立場を維持し、彼らが中共からの強硬姿勢と侵略を受けないよう保護すると記されています。
唐靖遠氏
「台湾を含む第一列島線諸国を守る。このことは米国政府の戦略的国策という形をとった米国政府の軍事介入に相当すると私は考えている。もし中共が台湾進攻に着手した場合、米国は武力による軍事介入を行って、台湾を守るという約束を守り、これを全うするだろう」
中共外交部の趙立堅報道官は、この文書によって米国がインド太平洋戦略を口実に中国を封じ込め、地域の安定性を損なおうとしているという「悪意ある」意図が明らかになったとして、「覇権維持戦略」だと非難しています。
中国の憲法学者、陳永苗(ちん・えいびょう)氏は、趙立堅報道官の話は実際には常套句であり無意味な話だと指摘しています。人々は通常、外交部の反応から彼らが何をしたいのかを知ることはできないからです。また、トランプ政権が政権交代前にアジア太平洋戦略関連文書を公開したのは恐らく、バイデン政権に、変更不可能の約束を残すためだったのかもしれないが、政権交代前というタイミングでの公開では遅すぎたのではないか、そしてこの発表に拘束力があるのかどうかについては今後の動向を見て判断する必要があると考えています。
バイデン氏は次期米国大統領に就任する前に、新たに設けられたホワイトハウス「アジア担当責任者」に元アジア太平洋国務次官補のカート・キャンベル氏を任命しました。キャンベル氏はホワイトハウスが機密文書を公開した日に、文章を発表し、米国はインド太平洋地域における同盟国としての役割を強く発揮し、トランプ政権時代の秩序の不均衡を補う必要があると強調しました。
これについて、トランプ政権がアジア太平洋戦略文書の機密を繰り上げて解除したのは、中共を阻止する意図があったと指摘する声もあります。米国軍事専門家のリチャード・フィッシャー(Richard D. Fisher)氏は、ラジオ・フリー・アジアに対し「25年後に発表されたときには、中国はすでにすべてを支配しているだろう」と指摘しています。
唐靖遠氏は「この文書は軍事的に第一列島線を保護する準則を定めたもので、各準則はすべて具体的な承諾とみなすことができる。例えば、衝突が起きた場合は中共に第一列島線内で海軍と空軍に優位性を継続させないという準則は、自国と同盟国の防衛力を強化し、台湾への兵器の販売を継続するという意味だとみなすことができるし、第一列島線以外のすべての地域、南シナ海のパートナー国を主導するという意味だともみなすことができる」と分析しています。
軍事評論家の沈舟(しんしゅう)氏は、このような準則に基づいて過去3年の間、米軍は西太平洋での軍備を増強し、特に2020年の初頭に西太平洋に航空機運搬船のセオドア・ルーズベルト号を配備したのだと分析しています。また同氏は「この3条の準則は実際には、人々が注視している台湾海峡に関する取り決めよりももっとカバーする範囲が広い。それは戦略レベルだけでなく戦術レベルにも関わっている」と考えています。