突風でゴンドラあおられ高所作業員が死亡 「保険もかけてもらえない」

湖北省武漢市で5月10日、突然黒雲が立ち込めて大雨が降り、高層ビルの外壁作業を行っていたゴンドラが強風にあおられてビルに激突して作業員2人が死亡しました。作業員は病院に運ばれたと公式発表されましたが、その家族は、遺体が床に転がされ放置されていたほか、家族が何者かに殴られて遺体が持ち去られたと話しています。

5月10日午後、武漢市に突然黒雲が立ち込めて、レベル10の雷と暴風が局所的に発生しました。インターネットに投稿された動画には、午後2時半に三陽路の高層ビルの17階部分で、作業員2人がゴンドラに乗って外壁作業を行っていた際に、突然の疾風にあおられたゴンドラが振り子のように揺れてビルの窓ガラスに何度も打ち付けられ、大きな音がしている様子が撮影されていました。

動画の開始部分では、ゴンドラの中に立っている人がぼんやりと見えますが、何度もビルに打ち付けられた後、人の姿は見えなくなっていました。

亡くなった作業員、楊さんの兄によると、楊さんは悪天候による作業中止の通知を受け取っておらず、しかも事件が発生した時に、停電のためゴンドラが動かない、助けてくれと電話をかけてきたと話しています。

事故が起きたのは三陽路にある高さ約200メートルの地鉄ビルで、死亡したのは湖北高芸装飾工程公司の作業員、施主は武漢地鉄集団、請負業者は上海宝冶集団でした。

もう一人の作業員は家族と共に洪湖市(こうこ-し)に住む韓さんで、家族は午後6時半に工事現場から通知を受けて急いで武漢に向かったが、到着した時にはすでに午後10時半を回っていたとのことです。

韓さんの家族の王さん
「当時の状況はというと、被害者2人の遺体を直接、17階の床に、暗闇の中に放置していた。私たちに何の告げないまま、誰かが遺体を直接、私たちの目の前で奪っていった。どこに引っ張って行かれたのか私たちにもわからない。あのとき私たちは彼らに(遺体を)奪われてはならないと思って彼らを阻止しようとした。すると彼らは大勢で暴力を振るってきた。私たちの中にはけがをした人もいる」

楊さんの兄はインターネットに、「事故発生後に武漢地鉄集団と上海宝冶集団から誰も話し合いに出てこなかった。死亡した作業員は床に放置され、簡素な布が掛けられていただけだった。夜10時半に到着した時、同じ服を着た30人くらいから袋叩きにされてスマートフォンを奪われ、遺体も奪われてしまった」と投稿しました。

複数のメディアがこの動画を報じましたが、その内容は事実とはかけ離れていました。10日夜11時近くに、あるメディアは27路の作業員2人について「救助は成功し、大事には至らず」と報じ、それから1時間後に武漢市応急管理局が「作業員2人は救出後病院に搬送されたが、応急処置が施されたものの死亡した。プロジェクト責任者から事情聴取中」と通達しました。しかし作業員は実際には病院へ送られてはいませんでした。

韓さんの家族の王さん
「雇い主の会社は重大なミスを犯した。天気予報があり、本来は(事故を)防止できたはずだ。こんな天気になるのに仕事を中止させなかった。私たちの人権が厳しい状況におかれているのは、雇い主が武漢地鉄だからだ。このような巨大国営企業、中央企業が、雇用契約も結ばず、作業員に相応の保険をかけてもいない」

王さんは、労使の間で労働契約が結ばれていないだけでなく、給料の未払いも起きていたと話しています。

韓さんの家族の王さん
「しかも彼は今年の初めごろからここで仕事をしていた。一日や二日ではなく、今まですでに数か月もずっと仕事をしてきたのに、日当の話もせず、公休が何日あるかも言わず、給料もまったく支払わなかった。こういう風にして、彼の命はここで無駄になった」

武漢で働く農民工の柴(さい)さんも「当時の天気は普通ではなく、スマートフォンでも天気予報を受け取ることができた。この会社が作業を中止しなかったのは明らかな過失であり、そのあとの惨事を撮影した動画は、その日のうちに武漢中に広まった」と話しています。

農民工は給料ももらえず、双方の間で契約さえ結ばれておらず、保険もかけてもらえないという状況は当たり前に存在しています。これは中共の「体制内、体制外」という体質や、同じ労働条件なのに賃金が違う、福利厚生が違うといった「二元化」の悲劇を反映しています。

武漢市の農民工の柴さん
「労働者が保険もかけてもらえないのは普通のことだ。一人や二人の労働者の話ではなく、中国の労働市場全体でこうなっている。中国で体制外に属する全ての労働者には何の保障もないのだ。何の仕事をしていようが、やりたいと思えばやるし、やりたくなければ辞めて立ち去る。どんな保険もかけてはもらえない。これが共産党の現行体制だ。体制内部と体制外部の二本の線と呼ばれている」

王さんは、武漢市共産党委員会はすでにプロジェクトグループを立ち上げて、遺族と賠償金について協議を始めたと話しましたが、「彼らが提示する金額は低すぎてかわいそうなくらいだ。彼らの口ぶりだと、数十万元程度のようだ」として、法律に介入してもらえたらと希望しています。

5月13日に家族に複数回取材を試みましたが連絡が取れず、この賠償金に関する新たな情報は得られませんでした。

 
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