中国最大のチップメーカーの中芯国際(SMIC)で先日、台湾積体電路製造(TSMC)の元重鎮、蒋尚義など複数の経営幹部の辞任という重大発表が行われました。これについて、今回の「人事地震」はSMICのウェハー事業が失敗したことを意味していると考える人もいます。米国による経済制裁を受けて、中国大陸の半導体業界をとりまく環境は悪化の一途を辿っています。
11月11日夜、中芯国際集成電路製造(SMIC)が、副董事長で執行董事でもある蒋尚義氏の辞任と、執行董事の梁孟松((りょう・もうしょう)氏が執行董事を辞任して共同CEOの役職のみとなること、楊光磊(よう・こうらい)氏が独立非執行董事を辞任するほか、周傑氏も非執行董事を辞任すると発表しました。このうち、蒋尚義氏、梁孟松氏、楊光磊氏は台湾人で、以前は台湾積体電路製造(TSMC)の経営陣に名を連ねていました。
蒋尚義氏は以前に、TSMCの共同CEOと研究開発部門の主管を務めており、2016年にSMICに移ってからは、独立非執行董事を務めましたが、2019年に辞任しました。その後2020年12月に再度SMICの董事会副董事長、執行董事に就任しました。当時、この人事はSMICが蒋尚義の力を使って最新の縮小投影型露光装置を入手し、チップ製造上の関門を突破しようと試みたからだと考えられていました。
今回、蒋尚義氏が就任からわずか一年未満で辞職したことについて、主な原因は米国と西側諸国が中共のハイテク技術をブロックして経済制裁を下したために、SMICが最新の縮小投影型露光装置などの設備を入手できなくなり、蒋尚義氏などはTSMCの一部の技術を提供することはできても設備を購入することはできないため、彼らがSMICの役に立たなくなったからだと考えられています。
台湾中華研究院 林向愷研究員
「中国は知的財産権の面で世界のその他の国の脅威となっているので、当然米国やオランダはこの種の生産設備を中共に提供しない。技術だけあっても設備がないのだから、やはりどうしようもない」
台湾国防安全研究院国防資産・産業研究所 蘇紫雲所長
「彼らの辞職は、中共が最新のチップ製造技術で遭遇している全方位的な封じ込めを象徴している」
蒋尚義氏は就任後、高性能の縮小投影型露光装置を購入したいと、オランダの半導体設備メーカーASMLに掛け合いました。それが紫外線EUV露光装置でした。
2020年12月、SMICは中共軍と密接に関係していたことから、米国防省のブラックリストに収載され、その後米国商務省の「エンティティリスト」にも載せられました。この制裁によって、TSMCに追いついて10ナノメートル以下の先進ウェハー製造分野に進出するというSMICの目的がほぼ実現不可能となりました。
蘇紫雲氏
「本当に重要なことは、民主と権威の競争だ。以前から、我々はデジタル(データ)民主とデジタル権威の競争について話している。なぜなら、中共はこの種のデジタル技術を使って軍備を拡大し、他国の脅威となり、デジタル技術を自国民の監視に使っているからだ」
今年6月、米国は28ナノメートル製造プロセスを備えた設備の中国への輸出も禁止しました。少し前にASML中国区の瀋波明(しん・はめい)社長は、ASMLは現在、中国にEUV露光装置を輸出することはできないと明確に述べています。
ウォール・ストリート・ジャーナルは先日、米国高官は現在、中国大陸の半導体業界に投資する米国企業に対する制裁を考慮していると報じました。中国のチップ産業に対する米国企業の投資がここ数年で依然として増えているためです。
これについて、台湾国防安全研究院国防資源・産業研究所の蘇紫雲所長は、「ナチスドイツに対し、一部の多国籍企業は利益を得るために、一部の監視設備や技術をドイツに売った。インテルなどの企業は現在、自社の利益のために中国に投資しているが、恐らく彼ら自身は、先進技術を中共に漏らすことはないと自信があるのだろう」と分析しています。
蘇紫雲氏
「歴史はときに繰り返されるが、結果が同じになるとは限らない。というのも、米国政府が現在、この種の重要な戦略技術が北京の手に落ちて、ひいては西側国家の安全を脅かすことのないように、同盟国とともに新しいアプローチをとっているからだ」
台湾中華研究院の研究員である林向愷(りん・こうがい)氏も、これまで西側諸国は中国のやることに甘かったが、中共が対外的な拡大を進めて知的財産の窃盗にも手段を選ばなくなったことから、他国は自国の安全を保障するため、その行く手を阻むしか方法がなくなったからだと述べています。
林向愷氏
「疫病が始まってから、サプライチェーンが大事なのだと誰もが感じた。サプライチェーンのなかで、他の国が民主国家であっても、中国とロシアが権威国家である限り、どのように協力しても、自分の技術や生産設備、人材はすべて彼らに掘りつくされ、それから民主主義への反撃に使われる。これは誰も受け入れられないだろう」
11月12日、SMICの株価は香港株式市場で6%下落し、上海での株価も同時に5%下落しました。