米国では、農村部から都会に引っ越したいと言っても、政府が止めることはありません。しかし、中国では話は別です。
中国共産党は、自らを農民と労働者階級の党だと言います。共産主義のシンボルで、ハンマーは労働者を表し、鎌は農民を表しています。
しかし、世界最大の共産主義国である中国では、農民は最も差別的な制度の下に置かれています。「戸籍」と呼ばれる居住許可制度は、中共政権が社会的安定を維持するために導入しました。しかしこの制度によって、農村部の人々が大都市に移り住むことが、不可能ではないにしても極めて困難になっています。
「戸籍」によって、住む場所が決められます。共産党が中国で政権を握った時から1980年代まで、農村部の人々は都市部に移り住むことが禁じられていました。運悪く農村部に生まれた場合、雇用の機会も少なく、教育の質も低い村に縛られる可能性があります。
中共の「改革開放政策」以降、この規制は緩和されました。現在では、何億人ものいわゆる出稼ぎ労働者が仕事を求めて都市部に殺到しています。しかし、農村部出身の労働者は、都市では依然として2等市民として扱われています。場合によっては、彼らの自国での状況は、一部の聖域都市や外国の不法移民と同等か、むしろ劣悪な場合もあります。
農民から労働者になった場合、往々にして適切な労働契約を結ぶこともできません。より劣悪な環境で長時間働かなければならないし、都市住民と同等の医療を受けられないため、病気になって病院にかかった場合には、より多くの費用を支払わなければなりません。また、その子供たちは地元の公立学校に行くことができないため、高額で質の低い私立学校に通うか、親元を離れて故郷に戻って学校に通うしかありません。
この10年余り、中共政権は戸籍制度の改革を繰り返し宣言してきました。一部の小規模都市は規制を緩和しましたが、大都市はどこも緩和していません。
例えば、人口2000万人の北京では、3分の1以上を占める700万人が出稼ぎ労働者です。市内の不動産や家賃が高いため、多くの人が地下や危険な建物、さらには仮設住宅に住んでいます。
2017年、そうした狭苦しい建物で火災が発生し、子供8人を含む19人が死亡しました。その後市政府は、彼らが「ローエンド人口」と呼ぶ、主に低賃金のサービス業に従事する出稼ぎ労働者を市外に追い出すキャンペーンを開始しました。
労働者らの家を強制的に取り壊し、何万人もの人々が一夜にしてホームレスになりました。
その一方で、中共当局はインターネットの管理を強化し、関連する議論を禁止しました。
北京のある写真家は当時、ニューヨーク・タイムズに、あの強制立ち退きは、ユダヤ人が一言の抗議もなく追放される、ホロコースト映画を思い起こさせるものだったと語りました。