バイデン政権初のインド太平洋戦略発表 「目標実現のための具体策欠く」

世界で最も影響力のある大国になろうと目論む中共政権は、インド太平洋地域における存在感を高めようとしています。

こうした中、米政府は2月11日、バイデン政権で初めてとなるインド太平洋地域における新たな戦略を発表しました。

近年、インド太平洋地域の重要性が強調されており、米国防総省は同地域を「最重要地域」に位置付けています。

同地域の範囲は、およそ米国の西海岸からインド洋にまでわたっています。米国のハワイ州、カリフォルニア州、ワシントン州、オレゴン州、アラスカ州、これら5つの州が太平洋に面しており、またグアムなども太平洋に位置しています。インド太平洋地域は、300万人以上の米国民の雇用を支えています。さらに、米国と同地域間の貿易総額は2兆ドル以上に達しています。

米国の輸出量全体の4分の1は、インド太平洋地域向けに輸送されています。

インド太平洋地域に配備されている米兵の数も、海外展開されている他の地域の中で最多となっています。また、同地域における6か国が核兵器を保有していると記載されています。

一方、インド太平洋地域にとっても、米国が重要な存在となっています。世界トップの軍事力を誇る米国は、この地域における「自由で開かれた」状態の維持に寄与しています。

インド太平洋地域は、世界人口の半数以上および世界経済の約3分の2を占めています。米国は同地域で500万人以上の雇用を支えており、また同地域への直接投資額は1兆ドルを超え、日中韓の総投資額を上回っています。

米政府が新たに発表した「インド太平洋戦略」は、同地域に対するバイデン政権のビジョンを反映しています。

同戦略では、「中共の抑圧と侵略は世界中に広がっているが、インド太平洋地域が最も激しい」と指摘しています。同地域における複数の主要国は、さまざまな面で中共と摩擦を抱えています。

南側では豪州への経済的報復。北側ではインドとの国境紛争。東側では記録的な数の戦闘機を台湾の防空識別圏に派遣するなど、台湾侵攻への懸念などがあります。

発表された戦略では、米国は、「中国を変えることが目的ではなく、米国や同盟国、友好国の目的を阻む中国の行動を抑えるように最適な世界のバランスを構築する」としています。

また「中国との競争に対して責任を持って管理する」としながらも、具体策は明記されていません。

バイデン政権のインド太平洋戦略について、シンクタンクの主任研究員が見解を述べています。

アメリカン・エンタープライズ研究所主任研究員 ザック・クーパー氏
「中国そのものではなく、中国の周辺地域に焦点を当て、この地域を強固なものにしようとする米政府の努力を見ることができる。安全保障の面でも経済面でも、さらには価値観の面でも、この地域の結束を強固にすることで、中国によるその秩序への挑戦をより困難にしようとしている」

クーパー氏は、今回発表された戦略に中国に対する明確な戦略が明記されていないことを懸念していると述べています。

アメリカン・エンタープライズ研究所主任研究員ザック・クーパー氏
「しかし、この文書の背後には別の意図もあるということを指摘しておく。インド太平洋戦略の目的は、より広範な地域的ビジョンを設定することであり、今後数か月の間に、中国に対するより明確なアプローチが発表されると思う」

戦略には、5つの目標が掲げられています。1.「自由で開かれたインド太平洋」の推進、2. 地域内外の連携構築、3. 同地域の繁栄促進、4. インド太平洋の安全保障の強化、5. 国境を越えた脅威への地域の対応力強化。

これら5つの目標の実現のための具体的な内容は記載されていません。一方、一般的な分野での大まかな内容が列挙されており、サイバー空間での重要な技術について同盟国と連携、同地域における独立した報道機関への投資、同盟国への援助などです。

クーパー氏は、戦略は、米政府がインド太平洋地域を最重要課題として捉えていることの表れだと考えています。しかし、まだいくつかの懸念点を残しているといいます。

アメリカン・エンタープライズ研究所主任研究員ザック・クーパー氏
「結局のところ、この文書の中身について考えてみると、アジアで人々が最も関心を寄せているのは、おそらく米国の経済的関与だろう。そして、多くの点で、それがこの文書の中で最も内容が薄い部分である」

戦略では、対中抑止を念頭に新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み」を構築する方針が明記されました。

アメリカン・エンタープライズ研究所主任研究員 ザック・クーパー氏
「しかし、それが何を意味するのか、私たちにはよくわからない。わかっているのは、彼らが何をやらないかということだけだ。それは、この地域の貿易や投資を自由化することだ」

貿易の自由化とは、関税を削減し、貿易面での交流を促進することです。

しかし、関税の引き下げは、米国の労働団体や批評家たちの反対に遭いました。彼らは、このような措置は米国の雇用と製造業を犠牲にするものだと主張しています。

トランプ前政権が環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱した要因もこのためです。

バイデン政権も同様に捉えています。政権幹部は、議会での支持を得られていないと主張しています。

アメリカン・エンタープライズ研究所主任研究員 ザック・クーパー氏
「しかし、実際に各国が望んでいるのは貿易の自由化なのだ。CPTPPに復帰するか、もしくは他の案を打ち出さなければ、この地域の経済問題に対して、他国が協力したいと思うような魅力的な解決策を持つことは非常に難しくなるだろう」

クーパー氏は、戦略はインド・太平洋経済の枠組みについて大まかに触れるだけで、具体的な内容がほとんど明記されていないと述べています。

アメリカン・エンタープライズ研究所主任研究員 ザック・クーパー氏
「この文書を読むと、特に目立つようなことは書かれていないように思う。驚きのない文書だということ自体が、大きな収穫かもしれない。それは1年以上にわたって政府から聞かされてきたこととほぼ一致している」

クーパー氏は、新たな戦略だけでは、政権の方向性を見定めるのは難しいと述べています。

しかし、一部では、米国の最大の利益と目標、政府がその目標を達成するために国力をどのように活用するかなどの包括的な枠組みである国家安全保障戦略の発表が期待されています。

 
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