中共の軍事力は米国を凌駕するのか(下)

前回放送した上編では、中共政権の軍拡が、欧米諸国の神経を逆なでしていることに触れました。しかし専門家は、中共政権の軍事力には問題があると指摘しています。国際戦略研究協会会長のグレッグ・コプリー氏に詳しくお話を伺いました。

国際戦略研究協会会長 グレッグ・コプリー氏
「私たちが認識しなければならないのは、中華人民共和国の軍事計画や宇宙計画の質は劇的に向上しており、確かに世界トップクラスだが、宇宙開発のための極超音速兵器や航空エンジン、戦闘機の設計などは、特に旧ソ連の技術に大きく依存していることだ」

コプリー氏は、中共政権は艦船や航空機を備えた近代的な防衛力を構築しているにも関わらず、旧ソ連の技術に大きく依存していると言います。

国際戦略研究協会会長 グレッグ・コプリー氏
「しかし、(中共は)20世紀のデザインと技術を使い、そして多くの点で、20世紀の戦略的思考で、そのすべての取り組みを行っている。例えば、日本の大東亜共栄圏を再現するために、南太平洋に移動し、敵対国に対する海上封鎖を考えているのだ」

コプリー氏は、中共政権が西側の新しい考え方に対抗できるかどうかが問題だと言います。

国際戦略研究協会会長 グレッグ・コプリー氏
「特に豪州、英国、米国によるオーカス(AUKUS)協定では、新しい技術や兵器の開発に重点を置いており、船の数などで中国に追いつく必要はなく、むしろ英国、豪州、米国の民間企業が開発する劇的な新技術で中共人民解放軍を凌ぐことができるのだ」

米国務長官 アンソニー・ブリンケン氏
「皆さんこんにちは。ペイン前大臣を再びお迎えすることができ、本当に嬉しく思う」

オーカス(AUKUS)協定が発表された当時、大きな話題を呼びました。

米CBSN アナウンサー
「新しい国家安全保障構想…」

英BBC アナウンサー
「北京当局は、この協定は極めて無責任なものであると述べた」

この協定により、3か国は幅広い防衛技術における協力を深めていくことになります。

中でも優先されるのは、人工知能(AI)、サイバー能力、量子コンピューティングです。また、豪州に原子力潜水艦を提供することも約束しました。

米国務長官 アンソニー・ブリンケン氏
「このパートナーシップは、かつてないほど強固で、かつてないほど重要なものだ」

しかし、そのための十分な時間があるかどうかを懸念する声も聞かれます。中共政権は2027年までに米軍と肩を並べることを目標としています。一方、豪州が原子力潜水艦を入手するのは2030年代後半になりそうです。時間は刻々と過ぎていきます。そこでコプリー氏はこう言います。

国際戦略研究協会会長 グレッグ・コプリー氏
「時間がいくらあっても足りないのだ。すべての戦争は始まる時に、準備ができたかどうかをあなたに聞くことはない。突然勃発するのだ。そして、自分の持っているものをすべて使って対応しなければならないのだ。明日もしくは明後日には、常に新しい技術が利用できるようになる。だから、できるだけ早く開発し続けなければならないし、可能な限り迅速に配備することだ」

コプリー氏は、差し迫った紛争の脅威が、新しい能力への投資を加速させる傾向があるといいます。そして、オーカスは限られた予算と人員を最大限に活用しようとしていることを指摘します。

国際戦略研究協会会長 グレッグ・コプリー氏
「つまり、今後数年以内に、例えば豪州でさえも長距離戦略攻撃兵器や極超音速兵器を保有する可能性があり、中華人民共和国やその人民解放軍がさらに南へ侵入しようとすれば、スタンドオフミサイルという制裁を与えることができるのだ」

豪州のピーター・ダットン前国防相は、豪州は計画より3年早い2024年までに、長距離攻撃ミサイルを軍艦に搭載する計画だと述べました。

元豪州国防相 ピーター・ダットン氏
「これは、豪州が準備を整え、我が国に対する如何なる攻撃を食い止めることができるようにするためのものだ」

では、現在のインド太平洋地域の勢力図について伺います。

国際戦略研究協会会長 グレッグ・コプリー氏
「現実には、米国と豪州、ニュージーランドは、特に南太平洋で、そしてインド太平洋全体でも優位に立っている。しかし、現在進行中の心理戦は、米国とその同盟国が混乱し、守勢に回っているのに対し、中共政権は攻勢に回っており、堅実に動いているという認識を与えている。これは非常に動きのあるチェスのゲームだ」

しかし、まだ明確になっていない問題が1つあります。台湾の安全保障についてです。

国際戦略研究協会会長 グレッグ・コプリー氏
「問題は、中共政権は限られた時間の中で、それを絶好の機会ととらえて、台湾を攻撃しなければならない、南太平洋に劇的に拡大しなければならない、あるいは、手に入らなくても圧倒的優位を得るまで待たねばならないと考えるのかどうかである」

台湾の安全保障は、米国にどのような影響を与えるのでしょうか?

国際戦略研究協会会長 グレッグ・コプリー氏
「台湾、そして中華人民共和国の拡張という問題全体が、米国にとって安全保障上の大きな関心事であることに疑問の余地はない。西側諸国にとって、ロシアウクライナの紛争は、歴史的観点からは小さな出来事だ。もちろん、個人的には大きな悲劇だ。しかし、戦略的に重要なことから目をそらしていることがある。それはインド・太平洋地域だ。台湾の安全保障の問題であり、中央太平洋を支配するための鍵となるものだ」

世界最先端の半導体の90%は台湾で作られています。この小さなチップがなければ、私たちのコンピューターやiPhone、戦闘機などは成り立ちません。

また、台湾島は極めて重要な場所に位置しています。日本からマレーシアに伸びる防衛線上にあり、中共が潜水艦を使ったミサイル攻撃を米国に対して行うのを防いでいます。

しかし、世界で起きている主要な出来事が、米政府の注意と資源を奪い合っています。

国際戦略研究協会会長 グレッグ・コプリー氏
「中国共産党は、ロシア・ウクライナ戦争によって事実上救われた。なぜなら、米国とカナダのNATOの関心を大西洋圏に戻したことで、インド太平洋から膨大な防衛能力を撤退させ、それらをウクライナに割り当てているからだ」

同じ方針の下で、米議会のウクライナへの援助は500億ドル(約6兆8,000億円)を超えています。

国際戦略研究協会会長 グレッグ・コプリー氏
「これは、かなり相当な量の軍事力の転用だ」

米政府は台湾に対し、ウクライナの武装に重点を置いているため、台湾への主要な武器納入を遅らせる可能性があると伝えています。

台湾は2026年までに、250基のスティンガーミサイルを入手するものと見込んでいましたが、延期となる可能性があります。その一方で、米国は1,400基以上のスティンガーミサイルをウクライナに供与しています。

お金の話に戻りますが、限られた防衛予算の中で、米国は何ができるのでしょうか。

コプリー氏は、防衛産業には新しい傾向があり、小規模な企業が特定の兵器をより低コストで、より速く製造していると指摘します。コプリー氏は、国防総省がより効果的に資金を使うために、従来の重工業から離れ、より小規模で多様な企業を取り入れることを勧めています。

〈字幕版〉

 
関連記事